最近、採用競争力が企業の競争力を左右する時代になってきたと感じます。人事(特に採用)に携わる皆様は、かなり危機感を持たれているのではないでしょうか。
なぜ、企業の競争力を左右するかというと、やはり採用競争の激化に伴って優秀人材を採用し難くなっているからです。やはり企業は人なり。いくら生産性を上げても、いくらDX等で省人化が進んでも、社員が減っていく企業では、中長期的な成長は望めないでしょう。
私も人事に携わる一人として、採用環境の厳しさに危機感を持っています。
ここでは改めて「新卒」や「20代の若手」の採用環境が厳しくなっていることを、5つの視点から整理してみたいと思います。
①人口動態
まず、人口動態で生産年齢人口の減が挙げられます。2000年時点で8,622万人だった生産年齢人口が、2020年には約14%減の7,405万人、2030年には約20%減の6,875万人になる見込みです。採用対象は生産年齢人口と必ずしも同一ではありませんが、要は採用の対象になる年齢層の人数が減っているということです。当然競争が激しくなります。

次に18歳人口を見ると、令和元年までの長期トレンドでは増減しながも右肩下がりになっており、以降も同様です。直近で一番多かった平成4年の205万人と令和6年の106万人を比較するとおよそ半分にまで減少しています。
ただ、18歳人口は減少トレンドですが、女性の大学進学率が増加し、むしろ大学入学者数は増加トレンドにあります。平成5年は男女合計で55万人だったところ、令和元年は63万人になっています。つまり、企業にとっては、選ばなければ新卒採用の対象者(大学卒業生)は増えているということになるのですが、すでに進学率の上昇も打ち止めとも言われており、今後は減少トレンドに入ることが予想されます。
したがって、これからは新卒採用の対象者も減少することになります。


②流動性の向上
人材の流動性が緩やかに上昇しています。流動性が高まると、転職市場に多くの人がプールされるので、企業はむしろ採用しやすくなるのではないかとの指摘もあるでしょう。確かに一昔前は企業優位という時期もあったかもしれません。ですが、近年はむしろ逆です。有効求人倍率の推移にも現れていますが、今は求職者が企業を選べる求職者優位になっています。ただ、流動性が劇的に高まっているかと言われると、必ずしもデータ上はそうなっておらず、緩やかな上昇という程度です。ですが、新卒採用における体感としては、内定を持ちながら選考を受けに来る方は確実に増えています(もちろんオープンカンパニー等による選考早期化の影響もあるでしょうが)。とはいえ、流動性が高まるということを企業側の視点で捉えると、離職率の上昇であり離職者の増加を意味します。したがって、退職者の補充採用ニーズが増加し多くの企業が募集を出します。今まで低い離職率で新卒採用1本で足りていた企業も経験者採用を行うと、採用マーケットにおける競合は増加します。そして、求職者優位を背景に企業は募集条件を引き上げを迫られている状況です。



③採用経路の多様化
今、企業は様々な方法を駆使して採用活動をしなければなりません。その際、ここで募集しておけば、まず間違いなく自社のペルソナに合致する人材と出会えるという採用経路がなくなっています。
ハローワーク、合同企業説明会、新聞折り込み広告、WEB広告、人材紹介という従来の手法に加えて、ダイレクトリクルーティング、スカウト、SNS採用、リファラル採用、アルムナイ採用などなど。私は経験がありませんが、最近ではミートアップ採用というものもあるようですね。コストが掛からないものもありますが、多くはコストが発生します。採用ターゲットがどこにいるのか、採用実績からある程度の絞り混みは可能ですが、本当にそれがベストなのかはわかりません。企業は様々な経路にコスト投下して、試行錯誤しながら、自社の募集にマッチした採用経路を探しているというのが実態ではないでしょうか。
④採用コストの増加
これは前述の採用経路の多様化にも関連しますが、採用経路の多様化に伴うコスト増以外にも採用難から募集条件を引き上げていたり、ベースアップ等による賃金上昇を背景にして人材紹介手数料の計算の元になる年収水準が上昇することでのコストアップもあります。また、例えば多数の競合よりも自社の求人情報に求職者を引き付けるために、従来よりも上位のプランに採用広告を出稿するというケースもあり、従来と同じ採用経路でもコストが上昇しているケースもあるでしょう。また、ダイレクトリクルーティングは必ずしも転職意向が高くなく、よい話があれば程度で登録している人も多く存在します。その場合、よい人材を見つけても、なかなか自社に関心を持ってもらえないまま時間が経過し、結局データベースを検索してスカウトメールを出しただけで終わってしまい、残念ながらデータベース使用料を支払っただけに留まるというケースも挙げられます。
特に採用競争力がない企業ですと、その傾向は顕著ではないでしょうか。そういった企業では、第二新卒で人員充足を図ったり、新卒採用も紹介会社に紹介手数料を支払って採用したり、SE等の専門職ですと新卒専門の紹介予定派遣を活用しているという例もあります。
採用のみならず、企業経営の視点から見ても、採用競争力を維持・向上するために、賃上げを行い、福利厚生を充実させ、ワークライフバランスを整え、能力開発のための研修制度を充実させ、魅力的なオフィスで働いてもらうために、全方位での投資が必要になっています。これらは必ずしも採用競争力を最優先にした取り組みではないでしょうが、間違いなく採用もそれら打ち手の目的の一つになっているでしょう。これらを採用コストと捉えるのはいきすぎでしょうが、視点を変えるとこういう側面もあることが見えてきます。
⑤ゼネラリストからスペシャリストへ キャリア志向の変化
求職者のキャリア志向は如実に変化しています。「この会社に入る」という目標から、「この仕事につく」という目標に変わっています。そして、「やりたい仕事」の内容がかなり細分化されています。「有形ではなく無形商材の営業をしたい。その際、御用聞きではなく顧客の課題を解決するコンサル型の営業をしたい」くらいは従来からあったかもしれませんが、経験者採用ですと「システム関連の仕事をしたい」ではなく、「インフラ系の経験があるので、そこのスペシャリストになりたい」というように自らのキャリアを通じて専門性を追求する方が増えてきています。新卒採用においても、専門性を身に着けたいという志望動機を聞く機会が増えました。
大企業は様々なポジションで募集をかけ、特定業務でのキャリアパスを提示することも可能ですが、中堅企業の多くはゼネラリスト的に複数の仕事をアサインしたり、複数部門を経験させることで育成するでしょうから、特定の仕事に限定した募集やキャリアパスの提示が難しい側面があります。中小企業は勿論ですが、中堅企業においても求職者のキャリア志向と自社の募集要件や人材マネジメントとのギャップが大きくなっていると感じる人事担当者は多いのではないでしょうか。
そもそも中堅企業の多くではジョブ型で適正配置を行い、ローテーションができるほどの社員数を抱えていません。社員を多能工化し、前後の仕事や隣の課の仕事に対する理解を深めてもらうことを重視しているのが実情です。
近年は就社ではなく就職とも言われジョブ型が注目され、企業側もキャリア志向の変化に対応しようとしていますが、まだまだ日本企業の大半はメンバーシップ型です。実際、メンバーシップ型は企業の人材マネジメントから考えるととても便利な人材マネジメント手法であるのは間違いないでしょう。だからこそ、多くの人事担当者が求職者と自社の人材マネジメントのギャップを感じているのかもしれません。

まとめ
ここまで5つの視点から採用環境の厳しさを検討してきました。
離職率の上昇によって採用ニーズが高まっているにもかかわらず、採用することの難易度は上昇しており、必要コストも増加しています。また、求職者と自社の人材マネジメントのギャップが顕在化しつつもあります。我々人事に携わる者にとって、とても厳しい環境になっています。
もはや採用競争力が乏しい企業は事業に必要な人材を確保できなくなってきており、今後はますますその差が開いていくでしょう。いくらマーケットで評価される商品やサービスを展開していても、事業に必要な人材が確保できなければ中長期的な成長は望むべくもありません。
経営者も採用競争力の重要性、採用業務の重要性を再認識せざるを得なくなってきています。人事担当者は今こそアイデアを出し、会社に働きかけて採用競争力の強化に努めらければなりません。採用の重要性が今までになく高まってきていることをむしろ追い風ととらえて、採用から会社の改革提案まで踏み込めれば理想的ではないかと思います。
人事は、人を相手にする業務ですので非常に苦労は多く、思うようにいかないことも多々あります。ですが、自分たちの仕事(採用)がこれからの会社の競争力を左右すると思えば、モチベーションも高まるのではないでしょうか。
時として採用業務は誰でもできると軽んじられたり、いまだに募集すればすぐに充足するという経営者や上司がいるかもしれませんが、早晩そのような認識が誤っていることに気づかざるを得ないでしょう(というか、まだそれに気づけていないなら大きな問題です)。それほど早いスピードで変わってきています。
取り巻く環境は厳しさを増していますが、我々の仕事の重要性が再評価される状況にあることは、非常にうれしいことだなとも感じます。
今回はここまでです。お読みいただき、ありがとうございました。
