若手社員の管理職回避の深層 Part.2

人事・総務の話題

前回のPart.1では、現代の若手社員がなぜ管理職を「罰ゲーム」として忌避するのか? 自己防衛的な「スペシャリスト志向」に走るのか? に関して、その構造的な要因を分析しました。

分かったことは、管理職が抱える過重な負担、経営者のムチャ振りや年上部下の対応等による大きなストレス、そして昇進による「手取り減」という不条理です。これらを目の当たりにしている若手にとって、管理職を回避することは極めて「合理的な生存戦略」であることです。

しかし、このまま管理職が不人気のままであれば、企業の未来は一体どうなってしまうでしょう?

組織を束ねる結節点が消滅し、専門家集団という名の「個人の集まり」へと退化してしまいます。

各種統計を詳細に読み解くと、悲観的な予測の中にも「希望の光」が見えてきます。それは、「イキイキと個性を発揮し、高い成果を出す管理職」と「既存のリーダー像に縛られて疲弊する管理職」の二極化です。

本稿では、若手社員が「この仕事なら自分も挑戦する価値がある」と確信できるような、管理職というポジションの価値再構築と、組織が取り組むべき抜本的な変革について解説します。

管理職=辛い、というイメージが先行していますが、実態はそれほど単純ではありません。

2025年10月に実施された日本マンパワーの意識調査によると、管理職の約45%が「現在の役割にやりがいを感じている」と回答しています。

注目すべきは、この「やりがい層」が率いるチームが、そうでない層に比べて「業績」「チーム状態」「人事評価」の全項目において圧倒的に良好な数値を示している点です。

「やりがい」が業績を生むメカニズム

調査結果を深掘りすると、管理職の満足度を決める「3つの分岐点」が見えてきました。

  1. 「やりがい」の連鎖(エンゲージメントの伝播)
    やりがいを感じている管理職の管轄チームは、72.5%が「業績良好」と回答しています。
    一方、やりがいのない管理職のチームでは34.5%に留まります。
    管理職の心の状態が、直接的にチームの生産性を左右しているのです。
  2. 「自分らしさ(個性)」の解放
    「自分らしさを活かせている」と感じている管理職は、そうでない層に比べ、約2倍の割合で「管理職を続けたい」と考えています。
    逆に、会社から押し付けられた「ステレオタイプなリーダー像」に自分を殺して合わせている管理職ほど、早期に燃え尽き(バーンアウト)、部下からも魅力的に見えないという結果が出ています。
  3. 「成長実感」の好循環
    成長を実感している管理職は、事務作業やプレイング業務ではなく「部下の指導・育成」により多くの時間を割いています。
    人の成長にコミットできている実感が、自身の継続意欲(78.5%)や、さらに上位の役職への意欲(57.9%)を生んでいるのです。

つまり、若手が避けているのは「管理職」という役職名ではありません。
”個性を殺し、部下を育てる余裕もなく、仕事に追われる『状態』”です。
この「状態」を打破することが、最優先事項となります。

次からは、この「状態」の打破について、実践可能な方法を検討していきます。

一人の管理職に「売上(数字)」「部下の育成(ヒト)」「事務作業(事務)」のすべてを完璧に求めるのは、現代の複雑なビジネス環境では不可能です。これが「管理職=無理ゲー」の正体です。

まずは仕事に追われる状態を解消する手法です。

「ヒト」と「コト」のマネジメントを分ける

近年注目されているのが、マネジメント役割の「アンバンドリング(分解)」です。

  • ピープル・マネジャー(ヒト担当)
    1on1、キャリア支援、メンタルケア、エンゲージメント向上に特化。
    人の成長に喜びを感じるタイプが担当。
  • タスク・マネジャー(コト担当)
    KPI管理、戦略立案、業務プロセスの改善、技術的指導に特化。
    ロジカルで実務に強いタイプが担当。

各社によってアプローチの違いはありますが、プレイングとマネジメントを両立させるのではなく、分担して特化するという考え方になります。

このように「マネジメント=専門職」として扱うことで、若手にとっても「管理職になることは、自分のキャリアにおける専門性を高めることだ」と認識しやすくなります。

中堅・中小企業などで人的リソースが乏しい場合は、プレイングとマネジメントを別々の人間に任せるのが難しい場合もあるでしょう。

その場合は「チーム内で分担」します。

管理職がすべての「正解」を持っている必要はありません。「育成の一部は、あのベテラン社員(スペシャリスト)にメンターとして任せる」「数値管理の事務は、事務効率化が得意な若手に任せる」といったように分担しましょう。

これは会社が制度的に導入しなくとも、管理職の裁量で実施できるでしょうし、目標管理上はその役割に見合う成果を設定することで、人事考課の対象に含めます。

何でもできる”スーパー管理職”を求める考えは根強く残っていると思いますが、早急に改めなければなりません。

管理職はオーケストラの指揮者であり、すべての楽器を演奏する必要はありません。

近年、国内の大手企業では「ピープル・マネジャー」という職種を独立させる動きが出ています。

ご紹介する日揮グローバルや双日の例は、「部下との対話や育成を通じた組織目標の達成」の重要性がかつてなく注目され、加えて現場の最前線で多くの役割を担う管理職の負担軽減を企図した結果の知恵といえます。

日揮グローバル(JGC)

従来は「部長」と「部長代行」を配置していましたが、2022年度より部長代行職を廃止。そして、従来の「部長」が担っていた役割を3つのポストに分散させました。

  • 部長(ライン長)
    部門のビジョン策定や組織戦略、最終的な意思決定を行います。
    以下2つのマネジャーが部長を支える形で、最終的な責任は部長が負います。
  • CDM(キャリア・デベロップメント・マネジャー)
    実質的なピープルマネジャーです。
    部下の育成、キャリア開発、評価、メンタルケアに専念します。
  • PCM(プロジェクト・コーディネーション・マネジャー)
    プロジェクトへの適正な人材配置やリソース管理(業務管理)を担います。

効果
1人の部長にかかっていた過重な負荷を軽減し、メンバー一人ひとりのキャリア開発に時間を割ける体制を構築できます。また、会社が社員のキャリア開発の重要性を認識していることを従業員に伝えることもできます。

この事例は部長職と部長代行職に関するものですが、最も先進的な事例の一つで参考になります。

双日

双日HPの”人材戦略基本方針「多様な個の力を最大化するミドルマネジメントの強化」”では、ミドルマネジメントの価値が再評価され、今後の強化ポイントであることが明記されています。

当社の価値創造の源泉である人材の力を最大化するため、対話を通じて社員の力を引き出し組織力の向上につなげるマネジメント力の強化が重要であると考えています。エンゲージメントサーベイ結果(2024年度回答率99%)を分析し、部課長の中で最も現場に近い課長職が組織エンゲージメントに大きな影響を与えることがわかりました。組織エンゲージメント向上においては、部長職と比べて課長職の影響力が高いため、課長職を中心としたミドルマネジメント層の強化に取り組んでいます。
また対話力の高い課長職の組織は、「風通し」「挑戦意欲」「成長実感」が高い傾向にあることがデータから明らかになりました。当社におけるミドルマネジメントの強化は「対話力向上が最重要」と位置づけ、研修の実施など強化施策を実行しています。今後、対話の質をより向上させ、組織の統率力向上、「事業創出力・事業経営力」の強化につなげます。

双日は、2019年に課長と係長級に当たる上級主任の間に位置する役職として「副課長」を導入しています。この副課長には、課長と連携して部下と対話する役割が与えられており、課長のピープルマネジメントを補佐する役割として機能します。

さらには、ピープルマネジメントの負荷を軽減し、かつ質の高いピープルマネジメントを実践するために、スパン・オブ・コントロールを従来の15~20人から10人程度に減らすことも断行しています。

スパン・オブ・コントロール
マネジャー1人が直接管理できる部下の人数や、業務の領域を指す経営学上の言葉。管理する部下の人数を適切に保つと組織の運営の円滑化につながるとして、経営組織をデザインする際に参考にされる。

一般に5~10人程度とされるが、定型業務か非定型業務か、IT化の進捗、マネジャーや部下の能力等、様々な要因で変動する。

不要事務の徹底的な「棚卸し」

管理職が疲弊する隠れた要因が「承認印」「ダブルチェック」「会議・報告資料の作成」などの事務です。事務が削減・効率化できれば、管理職が部下との対話に使える時間は大幅に増加します。

  • 「課長しかできない承認や確認」は本当にそれほど多いでしょうか?
    不要な承認や確認を徹底的に削減しましょう。
  • 経営者や上司への報告資料作成のために、管理職が数時間を費やしていませんか?
    資料を要求する経営者や上司は、基幹システムから直接主力される一次資料から必要情報を取得するか、どうしても自分用に加工した資料が欲しいなら、自ら情報を取得し加工すべきです。もしくは、BIツールを活用するなどで自動で生成されるようにして、上司のための資料作成という生産性のない事務から課長を解放すべきです。

また、今後はAIエージェントの活用も大いに可能性があるでしょう。

AIエージェントの活用により、課長の事務の効率化や生産性向上を図るべきで、忙しい課長ですが、AI活用に関するリスキリングは積極的に行うべきです。

次はスペシャリスト志向の若手を、どのようにマネジメントに接続するかです。

若手が「専門性を身につけたい」と言うとき、その本質は「会社が倒れても生きていける武器が欲しい」という生存欲求です。

ならば、マネジメントスキルが武器になれば良いのです。

これまでの日本企業では、管理職の仕事を「社内調整」や「根回し」という言葉で片付けてきました。しかし、これでは若手は動きません。「社内の人間にしか通じない特殊スキル」に見えるからです。

これを、次のように労働市場でも通用するように再定義し言語化することで、マネジメントスキルはポータブルスキルに昇華します

社内調整  →  コンフリクト・マネジメント(利害調整学)

異なる背景を持つ人々の利害を一致させ、合意形成を図るスキルは、どのような組織でも最高単価で取引される能力です。

部下への配慮 → ピープル・アナリティクス & コーチング

エンゲージメントサーベイや個人の評価履歴、そして傾聴や対話に基づき、個人のパフォーマンスを最大化させる人間理解と内発的動機付けのスキルは、AIには代替不可能な「ヒューマン・スキル」の頂点です。

業務管理 → オペレーション・デザイン(仕組みの設計)

誰がやっても成果が出る仕組みを作る能力は、将来起業する際にも、他社にヘッドハンティングされる際にも最強の武器になります。

マネジメントこそ、これからのAI時代に残る最強の専門職であり、
最も希少価値の高いポータブルスキルです。

なお、ポータブル化したマネジメントスキルを管理職に実装させるための教育研修は必須です。

Part.1で触れた通り、管理職回避の最大の合理的理由は「金銭的メリットの欠如」です。この問題は、精神論では絶対に解決しません。

経営者が直視すべきは、「管理職になった方が、時給単価でも総年収でも明確に得をする」という数値の証明です。

「管理監督者」制度の乱用を止める

労働基準法第41条の「管理監督者」を、「残業代を払わなくて済む便利な肩書き」として使っている企業は、今すぐその運用を見直すべきです。

法的に管理監督者と認められるには「経営者と一体的な立場での権限」や「労働時間の裁量」が必要ですが、多くの中堅・中小企業の課長職は、実態としてこれに該当せず、法的安定性に欠ける運用であり、それが管理職の報酬逆転現象の根源だからです。

推奨される報酬改定の方法

  1. 「管理職=残業代ゼロ」の廃止
    特にプレイングマネジャーが多い階層(たとえば課長級)については、管理監督者から外し、残業代の支給対象とします。もしくは一定時間(例:30時間)の固定残業代+超過分全額支給という形へ移行を検討します。
    これにより、「部下が残業して稼いでいる横で、上司がタダ働きする」という光景が大きく減るでしょう。
     
  2. 役職手当の「残業代内包」設計
    仮に管理監督者としての扱いを維持する場合でも、その給与は「全社の平均残業代」を大幅に上回る金額でなければなりません。
    • 改善前:
      役職手当5万円
      (残業代が消えて手取りが3万円減る)
    • 改善後:
      役職手当12万円
      (管理職一つ前の職位で月40時間残業した時よりも、確実に手取りが増える設計)
       
  3. 「賞与」へのインパクト付与
    管理監督職問題とは異なりますが、管理職の賞与算定において、個人の実績以上に「チームの生産性向上」や「部下の離職率低減」「部下の昇格者数」などの指標を大きく組み込むことも、報酬という側面から管理職(マネジメント職)にインセンティブを与える一つの方法です。
    「人を育て、仕組みを作った人が、最も金銭的に報われる」ということを、賞与を使って明確にします。
項目旧来の報酬体系これからの報酬体系(推奨)
残業代管理職になった瞬間、
全額カット
実残業に合わせて支給、
または高額な手当でカバー
年収比較残業の多い部下の方が高い(逆転)常に「管理職 > 部下」を
維持する
評価軸本人の売上・実務成果が中心チームの生産性、
部下の成長、仕組み化

【まとめと次回予告】

本稿では「若手の管理職回避問題」の対応方法として、以下3種類をご提示しました。

  1. マネジメント機能の「分業化」とプレイングの極小化
  2. マネジメントのポータブルスキル化
  3. 報酬の逆転現象を解消

Part.3では、さらに3種類の対応方法をご提示します。
是非、次回もご覧ください。

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