概要
- 📖 タイトル:人を選ぶ技術
- 🤵 著者等:小野 壮彦
- 🏢 出版社:フォレスト出版
目次
序章 「人を選ぶ」ということの意義
第1章 「人を見る目」を分解する
第2章 人を「階層」で捉える
第3章 相手の本質を見抜く実践メソッド
第4章 人を見る達人となるために
第5章 地雷を踏まないための知恵
第6章 人を選ぶ現場で今起こっていること
終章 「人を見る力」がもたらす究極の喜び
💡 印象に残った論点
1. 「見逃してはならない層」と「落とし穴になりやすい層」
本書では、人材を単純な優劣で分けるのではなく、その優秀さと人柄の組み合わせで四象限に分類し、特に注意すべきは以下の二つの層とされています。
- 一番欲しい層(見逃してはならない層)
イチロー選手の獲得を見送ったメジャー球団の例のように、様々なバイアスによって本当の優秀さを見過ごしてしまう層です。
例えば、学歴などの偏った評価軸で判断し、本来最も価値ある人材を平凡な層に押しやってしまうリスクを示唆しています。 - 落とし穴になりやすい層
すごく優秀で成果も出すが、常に会社への不満を述べたり、ネガティブなコメントをまき散らす人々です。
この層は優秀さゆえに数字を出し実績も作るため、表面的には評判が良いことが多く、抜本的な判断が遅れがちになる、タチの悪い層だと指摘されています。
2. 人の評価を歪める「認知バイアス」
優秀な人材を見過ごす背景には、私たちの無意識のバイアスが存在します。
- ハロー効果と認知バイアス
学歴が少し物足りないと感じた相手に対し、ネガティブな一面が見つかると、それが大きな影響を与え、他のポジティブな側面を覆い尽くしてしまう現象です。 - 確証バイアス
無意識のうちに自分の意見や仮説を支持する情報ばかりを優先的に探す傾向です。例えば、熱血的なマネジャーが無意識に積極的な発言を部下に求めてしまい、自分とは違うタイプの優秀さを見過ごしてしまうといった例が挙げられています。一度「ダメだ」と感じると、それを裏付ける情報ばかりを集めてしまう点が恐ろしい点です。こういう人っていますよね。。。
3. 人材選定の進化:「コンピテンシー」から「ポテンシャル」へ
人材選定の歴史は、身体能力、IQを経て、コンピテンシーとEQの時代からポテンシャルモデルの時代へと進化しています。
著者は、変化の速い現代において、今発現している能力(コンピテンシー)だけでなく、その深層にあるポテンシャルまで見る必要があると提唱されています。数年後には求められるコンピテンシーが変わっている可能性があるためです。
🛠 実務への示唆
面接で「エピソード」を引き出すことに徹する
面接において「ストレス解消法は?」のような答えを意図的に打ち返せる質問に意味はなく、エピソードを引き出すことに徹すべきと主張しています。
- 具体的な質問例
「あなたの人生で最も誇りに思うことは何ですか?」と漠然と問いかけ、その答えに対して「では、それに関するエピソードを教えてもらえますか?」と掘り下げていく手法が推奨されています。 - 価値観のコア分析
エピソードで語られている内容の重心の置き方を分析することで、その人が大事にしている価値観のコアを知ることができます。- 「チーム」「周り」「思いやり」などの言及が多ければ、人間関係を築くことに意識が強いタイプ。
- 周りの話がなく、数字の達成などの結果重視であれば、目標意識が強いタイプ。
- 改善系のエピソードが多ければ、あるべき姿を目指すタイプ。
マネジメントは「悪い癖が出ないようにケア」すること
本来のマネジメントとは、その人の傾向に合わせて転ばぬ先の杖を出すなど、悪い癖が出ないようにケアしたり適切に指導することだとされています。
また、採用においては「育てることを放棄する」のではなく、「育てる相手をしっかり選ぶ」べきであり、何も言われなくても自ら学んで育つような人材を選別して採用する方が効率的だという示唆があります。
3. 面接における心構えと態度
採用面接は、「お互いに良い時間にすることに徹する」場であると著者は述べています。
- 尊厳と興味
「貴重なお時間をありがとうございます」「お会いするのを楽しみにしていました」と、相手を尊重しつつ興味津々な姿勢で臨み、自分自身も面接を楽しむことが重要です。 - 風評リスクの予防
お互いに良い時間にすることは、SNS時代における風評リスクの予防にもつながります。面接官が尊大な態度をとったり、嫌な思いをさせたりすれば、誹謗中傷されかねません。 - リラックスの重要性
相手を和ませるには、自分自身がリラックスすることが必要です。そのためには、自分の弱みを口に出すトレーニング(自分のプライドはちっぽけなものだと心から思えるようになる)や、自分自身を知ることが求められます。
📝 総評(まとめ)
『人を選ぶ技術』は、特に採用に関わる全ての人に、自己認識と謙虚さを求める一冊です。
「雇ってやる」という意識を捨て、「人を決めつけず」「見切った気にならず」「好奇心の扉のシャッターを下ろさず」に相手と向き合うことの重要性が繰り返し強調されています。なぜなら、人は一定ではなく、時間とともに変化・成長していく生き物だからです。
優秀な人材を見逃さないためには、私たち自身が持つ認知バイアスを理解し、面接の場で表面的なスキルではなく価値観のコアに迫ること。そして、ポテンシャルを持った意欲的な人を採用し、なぜその人を採用したのかを説明できるようにすること。さらに入社後は、悪い癖が出ないようにケアするマネジメントを実践することこそが、組織を活性化させる鍵であると説かれています。
『人を選ぶ技術』は、採用や人材マネジメントにおける私たちの無意識のバイアスや、優秀な人材を本当に見抜くための視点について、改めて考えさせられる一冊でした。

