本の概要
タイトル:生成DX
著者等:小宮昌人
出版社:SBクリエイティブ
戦略・DX支援企業のd-strategy,incを創業し代表取締役として、生成AIをはじめとするデジタル化・技術変化の中での企業やスタートアップのDX/ソリューション・イノベーション戦略を支援している著者が、豊富な事例を紹介しながら、生成AIの活用方法や将来展望について解説している一冊です。
本書の構成は次の通りで、序章と終章を含め全8章になっています。
序章 生成AIビジネス活用事例を知る意味
第1章 生成AIがビジネスモデルに変革をもたらす
- Sec.1 生成AIについて
- Sec.2 生成AIの活用により生まれるビジネス(土台編)
- Sec.3 汎用生成AIをより自社・産業業務にカスタマイズする
- Sec.4 生成AIビジネス戦略の3つの段階モデルと生成DX戦略
第2章 生成AI活用2.0(自社・産業データと生成AIを組み合わせたオペレーション変革)における活用事例
- Sec.1 現場ノウハウ体系化・引き出し
- Sec.2 顧客・従業員へのパーソナライズ対応・体験
- Sec.3 複数組織・拠点管理の半自動化
- Sec.4 Generative Designによる設計自動化
- Sec.5 素材探索・創薬の自動化・用途開発
- Sec.6 フレキシブル機器・ロボット制御
- Sec.7 業務プロセスのAIエージェント化
- Sec.8 交渉・企業間コミュニケーション自動化
第3章 生成AI活用3.0(ビジネスモデル変化/顧客・環境価値向上)における活用事例
- Sec.1 自社ノウハウの外販による新規ビジネスモデル
- Sec.2 既存ITサービスの生成AI組み込みでの付加価値強化
- Sec.3 環境・社会価値創出の効率的対応
第4章 さらなる生成AI活用論点
- Sec.1 合成データと生成AI
- Sec.2 システム・データ連携と生成AI
- Sec.3 メタバース/デジタルツイン×生成AIの融合
- Sec.4 産業のビジネスモデルの変化一例
- Sec.5 社会システムと生成AI
第5章 生成AIキープレイヤーと言語モデル開発
- Sec.1 キープレイヤーの生成AI活用戦略
- Sec.2 言語モデル開発の行方
第6章 生成AIビジネス展開に向けた手引き
- Sec.1 【ビジネス検討編】いかにAIを戦略に組み込むか
- Sec.2 【生成AI導入・展開編】いかにAI活用を拡げるか
終章 日本企業の生成AI実装経営のもつ可能性
- Sec.1 生成AI時代の組織のあり方の変化
- Sec.2 生成AI時代の人の役割・クリエイティビティの変化
- Sec.3 経営層の変化・その他の役割の変化
- Sec.4 デジタル地政学時代における日本の立ち位置

学びと共感
- 人工ビジネスモデルの変化
人の工数×単価で顧客に提案・課金をしている”人工ビジネス”のビジネスモデルの変容は、管理部門の業務から連想がしやすく、なるほどと感じた視点でした。
生成AIの活用によって、人の工数が減れば、提案する価格が下がるので、売り上げ減少を避けるため、工数ベース・人工ベースの見積もりから、成果やオペレーションのトランザクション課金などに課金源泉を変えていくことが求められるとの指摘です。
確かにSierに代表されるシステム会社は、人の工数×単価で提案をされていますので、そのような企業にとって今後の検討事項であることは間違いないのでしょうね。 - 「ノウハウのない人であっても(3Dモデル)作成がきるようになり3Dモデル生成が民主化する」
この考察もとても興味深かったです。
今はまだ解像度が粗く、コンシューマーが没入できるほどの精度ではないようですが、これが衛星データから詳細な都市3Dモデルを自動生成し、それをゲームなどに活用できる未来が、すぐそこまで来ているのだと感じました。 - 「工場などの現場で使用できるAIを活用した現場カイゼンツールや分析ツールを簡単に作り上げることができるようになってきており、デジタルを活用した現場カイゼンが民主化する」との指摘にも共感が大きかった点です。
- 「聴覚支援を目的として文字情報の読み上げや、資格支援を目的として周囲環境や会話内容の文字か・文章からの手話画像自動生成への生成AIの活用が進められている」とあり、こんな活用方法があるのか!と感心しました。
とても有意義な活用方法の一つだろうと思います。
NHKはテキストデータを元に手話のCGアニメーションを生成する技術を研究しているようです。様々な面でハンディキャップのある方への支援が進めばいいなと感じました。
確かに、必ずしも利用者が多くない分野にも生成AIをカスタマイズできれば、マイノリティの方への支援を充実する余地は大いにあるのではないでしょうか。
最後に
これからはAI活用を前提として業務フローを構築すべきです。
本書には多岐に渡る業界の他社事例が掲載されていますので、AIを自社の事業にどのように活かすかを考えるうえでのヒントが見つかるかもしれません。
AI活用を前提にしたオペレーションの再設計というAI活用の方向性は必須だと思います。ただし、AIはますます一般的になっていきます。したがって、単に汎用AIを活用するだけでは、他社と差異化ができません。
できれば、オペレーションレベルからさらに踏み込んで、AIを自社の戦略にどのように組み込むかまで、つまりAIを起点にどのようにビジネスモデルを構築するかという戦略レベルまで踏み込んで検討したいところです。
生成AIの民主化は、もうそんなレベルまで到達しているのだと考えさせられました。
また同時に、AIを起点にビジネスを創出できる人材やAIを業務で使いこなす人材を如何に育て・増やすかは、一般の事業会社ではまだまだ難易度が高く、地道な取り組みが必要ということも感じているところです。
今後は、経営層を含む全ての階層と、情報システム部門だけでなく社内の全ての部門で、AI人材を増やすための仕掛けが必要という思いを強くした一冊でした。