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【書評】『自律する組織人』:会社に依存しない社員ほど、実は組織を愛している?

書評

【Check!】こんな悩みはありませんか?
・社員の離職率が下がらず、対策に苦慮している
・自律型人材の育成が、組織への裏切りになる気がして踏み切れない
・「会社を愛する自律した社員」を育てる具体的なヒントが欲しい
― 組織心理学の名著『自律する組織人』の知見をもとに、これらの問いへの答えを解説します。

「社員の会社への愛着(組織コミットメント)を高めるには、どうすればいいのか?」
「キャリアの自律を促すと、優秀な人材が流出してしまうのではないか?」

経営者や人事担当者、そして全てのマネージャーにとって、これらは常に悩ましい問題です。本書『自律する組織人』は、こうした問いに対し、組織心理学の知見から、組織と個人の関係性を解き明かしてくれる一冊です。

以前、「組織行動の考え方」の書評でも触れた「組織へのコミットメントが、逆に災いを呼ぶ」という逆説的な視点も交えながら、本書のエッセンスに触れていきます。

  • 📖 タイトル:自律する組織人
  • 🤵 著者等:鈴木竜太
  • 🏢 出版社:生産性出版

目次
まえがき
第1章 組織と個人の関係の考え方
1 何のために組織で働くのか
2 自律と組織人
3 考えなければいけない問題と考えなくてもいい問題
4 この本の構成
第2章 組織と個人の関係はどのように表現できるのか
1 組織コミットメントという分野
2 仕事へのコミットメント
3 なぜ従業員のコミットメントが高くなるのか
4 本当に日本人の組織へのコミットメントは高いのか
第3章 組織と個人の関係はキャリアの発達とともにどのように変化していくのか
1 組織コミットメントのJカーブ
2 キャリアの発達と組織との関係
3 キャリアの転機と組織との関係
4 キャリア論における会社との関係
5 キャリア・ミストとドリフト


第4章 会社は従業員との関係をいかに管理していくのか
1 組織側の「組織と個人の関係」の考え方
2 日本的経営システムと組織への忠誠心
3 補欠のコミットメント
4 コミットメントが強い組織とそうでない組織
5 成果主義はコミットメントにどんな影響を与えるのか
6 自律的キャリアの促進とコミットメント
第5章 これからの組織と個人
1 スキルとキャリアとコミットメント
2 組織を背負う意識
3 他者にコミットする組織 ― タマノイ酢のケース
終章 自律する組織人

まず、私たちが「この会社にいよう」と思う心理状態、すなわち組織コミットメントには、マイヤーとアレンの定義によれば、大きく分けて以下の3つの種類が存在します。

種類特徴影響を与える要因
情緒的
コミットメント
「好きだからいたい」という愛着や誇り現在の状況(仕事の面白さ、人間関係など)
功利的
コミットメント
「損したくないから残る」という利害関係過去の蓄積(退職金、特殊スキル、給与体系など)
規範的
コミットメント
「居続けるべきだ」という義務感や恩義組織への恩義や社会的な規範

本書では、主として情緒的コミットメントと功利的コミットメントについて説かれていますが、私が注目したのは「情緒的コミットメント」です。これは仕事が単調でなく、自らプロセスを決められる「仕事の豊かさ」によって高まります。一方で、自分の役割が不明確だと低下してしまいます。

職場の組織文化が情緒的コミットメントに与える影響について、3つの視点を提示しています。

  1. 組織文化の強さ
    個性のない組織より、カラーがはっきりした組織に人は惹かれるという考え方
  2. 組織文化の内容
    助け合い(親和的)や自律・革新的な文化など、文化の強さよりも内容が重要とする考え方
  3. 一致の魅力
    組織文化の「強度」でも「内容」でもなく、自分の価値観と組織の文化がどれだけフィットしているかが影響を与えるという考え方

どれが決め手になるかは人それぞれですが、どうしても会社の価値観を個人に寄せることは難しいので、個人が会社の価値観に寄せていく必要があるでしょう。

昔は、個人と会社の関係を長期で考える人が大半でした。だから、会社の価値観を積極的に受け入れ理解しようとしました(せざるを得なかった)。

ですが、雇用の流動化が進む今、個人が積極的に会社の価値観を受け入れる必要がなくなりました。この会社は合わないと思えば、辞めて組織文化が合う企業に転職すればよいのですから・・・

就職活動の中で、”社風”を重視する学生が多いことは知られていますが、これはカルチャーフィット採用を実践する企業にも同様のことが言えます。その意味では、就職活動とは学生が組織文化を共有できる企業を探すことであり、企業にとっての採用活動とは組織文化を共有できる人材を探すことだと表現できます。

本書の最も興味深い指摘は、「キャリアホープ(将来への希望)」を持つ人ほど、組織に情緒的にコミットするという点でした。

多くの企業は「市場価値を高める教育をすると、外に逃げられる」と恐れますが、著者の調査結果はその逆を示しています。

「会社に依存せずに自律しろ」「自己理解を深めて、キャリアビジョンを描け」「自分にとって適切な選択をしろ」「そのためにリスキリングに励め」なんて言うと、むしろ転職を助長しているような錯覚に陥りますが、そうではないということです。

  • キャリアホープ(将来の希望)がある人
    組織を背負う意識が強く、組織のために発言する。
  • キャリアがドリフト(漂流)している人
    自分自身のキャリアに関心が低く、組織へのコミットメントも低くなる。

つまり、会社が社員に「自律的キャリア」を促し、自らの組織における将来の可能性(キャリアホープ)を提示することこそが、結果として人材流出を食い止めるセーフティーネットになるのです。

本書では、これからの時代に求められる「自律する組織人」を次の2つのタイプで紹介しています。

① アイデンティティを持つ組織人

自分の軸をしっかり持ち、組織と適切な距離を保てる人です。

組織にとって「替えの利かない存在」であり、組織がキャリアの希望を提示することで、より強固な信頼関係を築けます。

② 組織をリードする組織人

組織の価値観を内面化した上で、組織を背負って立つ人です。

単に従順な「組織人間」ではなく、自らの価値観や倫理基準に基づき、組織そのものをリードしていきます。

しかし、以前読んだ「組織行動の考え方」で紹介されていたように、組織へのコミットメントは必ずしも「高ければ高いほど良い」わけではありません。

「会社との強い精神的紐帯によって愛着を感じる人だけが会社を引っ張っていく」

「会社に強い関心を持たず、残りの人生を何とか無事に切り抜けようと居残りを決め込む人の場合には、組織へのコミットメントの高さが、逆に会社にとって災いを呼ぶ」

この視点を本書にあてはめると、「情緒的コミットメント」と「キャリアの自律」の組み合わせが鍵であることがわかります。

単に情緒的コミットメントが強いだけの人は、組織の命令に従順になりがちです。しかしこれでは、組織が間違った方向に進んでいてもブレーキをかけることができません。

本書が説く「自律的な組織人」は、組織を背負う意識があるからこそ、組織に対して「健全な批判者」としてきちんと物申す(発言行動)ことができる人です。

ASA理論で説かれるように、組織は放っておくと同質化し、タコ壺化してしまいます。

だからこそ、会社に依存せず、自らの足で立っている「自律した個人」が、愛着を持って組織をリードし変革し続けること、それこそが現代の組織における「健全なコミットメント」の姿なのだと、改めて感じました

そのために、会社が社員に「自律的キャリア」を促し、自らの組織における将来の可能性(キャリアホープ)を提示することが鍵になると、本書は教えてくれます。

本書『自律する組織人』には、本記事で紹介しきれなかった「成果主義がコミットメントに与える影響」や、具体的な企業事例も豊富に掲載されています。組織と個人の関係性を、より深く学びたい方は、ぜひ実際に手に取ってみてください!

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