はじめに
投資を始める方法はいろいろありますが、その中でも「インデックス投資」は、初心者にもよく推奨される人気のある方法の一つです。インデックス投資とは、特定の選手一人を応援するのではなく、チーム全体を応援するようなものです。
今回は、そんなインデックス投資の基本から、インデックス投資が株価に与える影響まで、わかりやすく解説していきます。
この記事で学べること
この記事を読むことで、以下の内容について理解を深めることができます。
- インデックス投資の基本的な仕組みと、そのメリット・デメリット
- 日本の代表的な株価指数であるTOPIXから銘柄が除外されると、その会社の株価にどのような影響があるのか(実例を交えながら)
インデックス投資を解読する
株価指数とは?(TOPIXと日経平均株価を知ろう)
まず、「株価指数」という言葉からご説明します。
これは、株式市場全体や特定の部分の「成績表」のようなもので、特定の株式グループのパフォーマンスを追跡しています。
日本の代表的な株価指数には、TOPIX(東証株価指数)と日経平均株価(日経225)があります。
- TOPIX(東証株価指数)
- 東京証券取引所のプライム市場(以前の東証一部)に上場しているほとんどの主要企業の株価を対象としています。TOPIXには多くの企業を含んでおり、最近の東証の市場改革を経て約1,700銘柄(以前は約2,100銘柄以上)で構成されています。
- TOPIXは、昭和43年(1968年)1月4日の時価総額を100として、その後の時価総額を指数化したものです。
- TOPIXは「時価総額加重型」の指数です。
つまり、企業の規模(株価×発行済み株式数で計算される時価総額)が大きいほど、TOPIXの動きに与える影響も大きくなります。
なお、時価総額加重型は、日本のTOPIXの他、米国株式のS&P500種株価指数やNASDAQ総合指数、世界株式ではMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスなど、多くの株価指数が採用している算出方法になります。
- 日経平均株価(日経225)
- 日本経済新聞社が選んだ日本の主要企業225社の株価を基に計算されています。
- こちらは「株価平均型」の指数で、1株あたりの株価が高い企業の株価が、企業の全体の大きさに関わらず、指数の動きに大きな影響を与えます。
なお、株価平均型は、日本の日経平均株価の他、米国株式のダウ・ジョーンズ工業株価平均(NYダウ)などが採用している算出方法になります。
TOPIXと日経平均株価は、どちらも日本の株式市場の動きを示す重要な指標ですが、その計算方法や対象となる銘柄の数が異なります。
TOPIXは、より多くの銘柄を含み、各企業をその市場価値(時価総額)に応じて重み付けするため、日本経済全体の動向をより広範に反映していると言われることがあります。
一方、日経平均株価は225銘柄に限定され、株価の高い銘柄の影響を受けやすいため、市場の一側面を切り取った指標と見ることができます。
ニュースで「市場が上昇した」と報じられる際、どちらの指数を指しているかによって、その背景にある動きが異なる場合があることを知っておくと良いでしょう。
インデックス投資とは:市場の波に乗る
インデックス投資とは、TOPIXやアメリカのS&P500のような特定の株価指数(インデックス)の動きに連動することを目指す投資方法です。
個別の会社の株を選ぶ代わりに、その指数に含まれるすべての会社の株を少しずつまとめて買うようなイメージです。
これは「パッシブ運用」とも呼ばれ、ファンドマネージャーが市場平均を上回る成績を目指して積極的に銘柄を選別する「アクティブ運用」とは対照的です。
メリット・デメリット
インデックス投資には、特に投資を始めたばかりの方にとって魅力的な点と、注意すべき点があります。
- メリット
- 分散投資(すべての卵を一つのかごに盛るな)
投資の格言に、「すべての卵を一つのかごに盛るな」というものがあります。
これは、特定の商品だけに投資をするのではなく、複数の商品に投資を行い、リスクを分散させた方がよいという教えです。
インデックスファンドを買うことは、自動的に多くの企業に少しずつ投資することになります。もし一つの会社の業績が悪くても、全体の投資への影響は比較的小さく抑えられます。 - 低コスト
インデックスファンドは、アクティブ運用ファンドに比べて運用管理費用(信託報酬)が一般的に安く、販売手数料が無料の商品もあります。これは、ファンドマネージャーが銘柄の調査や頻繁な売買に手間をかける必要が少ないためです。
コストが低い分、より多くのお金が投資に回るため、長期的なリターンに繋がりやすくなります 。 - わかりやすく、追跡しやすい
ファンドの成績は、ニュースなどで報じられる指数の動きとほぼ同じになります(例:「本日のTOPIXは1%上昇しました」)。
そのため、自分の投資がどのように動いているかを比較的簡単に把握できます。 - 初心者でも始めやすい
専門家が運用を行い、多くの場合、少額から「積立投資」(毎月決まった額を投資する)という形で始めることができます。
- 分散投資(すべての卵を一つのかごに盛るな)
- デメリット
- 市場平均を上回ることはない
インデックスファンドは市場平均に連動することを目指すため、市場平均を大きく上回るリターンは期待できません。 - 元本割れの可能性(元本割れの危険性)
インデックス投資も株式投資の一種なので、リスクが伴います。
市場全体が下落すれば(例えば、コロナショックやリーマンショックのような経済危機時)、インデックスファンドの価値も下がります。銀行預金のように元本が保証されているわけではありません。 - 選択肢が限られる(日本の場合)
世界的には数多くのインデックスファンドが存在しますが、日本国内で購入できるものは、知名度の高い指数に連動したものに限られる傾向があり、アクティブファンドに比べて商品数が少ない場合があります。
- 市場平均を上回ることはない
インデックス投資は、一般的に「コツコツ積立投資する」ことが推奨されます。
これは、短期間で大きな利益を狙うのではなく、長期的な視点で資産形成を行う考え方に基づいています。このような投資スタイルは、価格変動に一喜一憂せず、規律ある投資習慣を身につける上で、特に専門知識を持たない投資家にとって価値があると言えます。
市場のタイミングを正確に予測することはプロでも難しいため、定期的に一定額を投資し続けることで、購入価格が平準化され、高値掴みのリスクを抑える効果も期待できます。
個々の投資家がインデックスファンドを選ぶ行為は、市場の平均リターンを受け入れるという「受動的(パッシブ)」な選択です。
しかし、世界中でインデックスファンドに流れ込む資金は莫大な額に上ります。
そのため、これらのファンドが指数構成銘柄の変更などに対応して株式を売買する際には、その取引量が株価に大きな影響を与えることがあります。
この点は、次の章で詳しく見ていきましょう。
インデックス投資が株価に与える波及効果
大口プレーヤー(インデックスファンド)が市場を動かす仕組み
インデックスファンド、特に規模の大きなものは、巨額の資金を運用しています。
これらのファンドが、連動を目指す指数の構成に合わせて株式を売買する必要が生じた場合、その大量の注文が株価を動かすことがあります。
特に「終値取引(その日の取引終了時の価格で取引すること)」は、インデックスファンドにとって重要です。
なぜなら、多くの株価指数が終値を使って計算されるため、ファンドも指数に正確に連動するためには終値で取引を行うことが理想的だからです。しかし、ファンドの運用額が大きくなると、終値だけで大量の取引を執行することは難しくなります。
いつ、どの銘柄を、どれだけ売買するかが他の市場参加者にある程度予測されてしまうと、ファンドにとって不利な価格で取引せざるを得なくなる可能性も出てきます。
例えば、ある銘柄が新たに指数に採用されると、多くのインデックスファンドが一斉にその銘柄を買おうとします。この需要の増加は、株価を押し上げる要因となります。逆に、指数から除外される銘柄は、ファンドが一斉に売却するため、株価が下落する圧力がかかります。
指数への採用・除外のドラマ:株価はどうなる?
企業がTOPIXのような主要な株価指数に新たに採用されると、その指数を追跡しているインデックスファンドは、その企業の株式をポートフォリオに組み入れるために購入しなければなりません。
この買い需要の増加は、特に発表直後や実際の組み入れ日に向けて、株価を一時的に押し上げることがよくあります。
反対に、ある企業の株式が指数から除外されると、インデックスファンドは保有しているその株式を売却しなければなりません。
この売り圧力は、株価を一時的に押し下げる要因となります。このような価格変動は、指数変更の発表時や実施日周辺で特に顕著に見られる傾向があります。
「価格発見機能」をめぐる議論
市場には「価格発見機能」と呼ばれる重要な役割があります。
これは、市場に参加する多くの投資家が、企業の業績や将来性などの情報(ファンダメンタルズ)を分析し、現在の株価が割安か割高かを判断して売買を行うことで、その株式の適正な価格が形成されていくプロセスを指します。
しかし、インデックス投資が市場全体に広がると、この価格発見機能が弱まるのではないかという議論があります。
なぜなら、インデックスファンドは、個々の企業の良し悪しを個別に判断して投資するのではなく、指数に採用されているという理由だけで機械的に、多くの銘柄を「一緒くたに」購入するからです。その結果、本当に優れた企業や成長が期待できる企業に効率的に資金が集まりにくくなる可能性が指摘されています。
個々のインデックス投資家は受動的に市場平均を受け入れますが、その資金が集まって巨大化したインデックスファンドは、特に指数の構成銘柄入れ替え(リバランス)時には、株価に非常に能動的な影響を及ぼします。
指数の変更は事前に公表されるため、他のアクティブな投資家たちは、インデックスファンドの機械的な売買を予測して先回り取引を行うことがあります。これにより、価格変動がさらに大きくなったり、インデックスファンドが結果的に高値で買い、安値で売るという不利な取引を強いられたりする可能性があり、これがわずかながらリターンの低下に繋がることも考えられます。
このように、受動的なはずのインデックス運用が、市場に能動的かつ時には意図せぬ影響を与えるという側面があるのです。
TOPIXに注目 – 大きな変化と株価への影響
東京証券取引所の改革:最近の動き
2022年4月、東京証券取引所(東証)は市場区分を再編しました。
それまでの東証一部、二部、マザーズ、JASDAQといった市場区分から、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つへと変わりました。この改革の目的は、市場の魅力を高め、企業のガバナンス(企業統治)を改善し、持続的な成長を促すことでした。
TOPIXの衣替え:なぜ、どのように?
歴史的に、TOPIXは東証一部に上場する全銘柄を対象としてきました。
しかし、市場再編に伴い、TOPIXの構成ルールも見直されることになりました。
その目的は、TOPIXをより機能的で市場を代表する指数にすること、特に十分な流動性(取引のしやすさ)と企業規模を持つ銘柄に焦点を当てることでした。
重要な変更点の一つは、「流通株式時価総額」(市場で実際に取引可能な株式の時価総額)が100億円未満の銘柄について、段階的にTOPIXから除外するか、その構成比率を引き下げるという方針が打ち出されたことです。
株式がTOPIXから除外される(または影響力が低下する)場合:株価への影響
企業がTOPIXから除外される(または影響力が低下する)理由
主な理由は、新しい基準である「流通株式時価総額100億円未満」という条件を満たさないことです 。
この見直しの背景には、TOPIXの構成銘柄が活発に取引され、その株価が企業の実態を適切に反映している状態を確保することで、TOPIXが経済指標としての有用性を高めるという狙いがあります 。
「段階的ウエイト低減」とは
- 企業をTOPIXから一度に除外すると、その企業の株価が急落する可能性があるため、東証は構成比率を徐々に引き下げるという方法を取りました。
- このプロセスは2022年10月末から始まり、最初の対象企業群については2025年1月末までに四半期ごとに10段階で実施される予定です。
- 2022年10月7日には、493社が「段階的ウエイト低減銘柄」として公表されました。
- 2023年10月には再評価が行われ、基準を満たした企業はTOPIXの構成銘柄として残ることができました 。
- TOPIX改革はこれに留まらず、さらに次の段階の見直しが計画されており、2028年頃まで構成銘柄の再評価や除外が続く予定です。
実例:対象となった銘柄の株価はどうなったか?
当初の予想と影響
一般的に、指数からの除外や構成比率の低減対象となった銘柄は、インデックスファンドがそれらの株式を売却する必要があるため、「売り圧力」に直面すると予想されます。
実際、最初のウエイト低減が実施された2022年10月28日には、これらの銘柄群の株価は、平均してTOPIXよりも約1.3%下落しました。これは、パッシブファンドなどによる売りが膨らんだためと推察されます。
出典:ニッセイ基礎研究所
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/73709_ext_18_0.pdf?site=nli)
驚きの傾向
- ニッセイ基礎研究所が2022年10月から2023年1月までの期間で、対象となった490社の「段階的ウエイト低減銘柄」の株価動向を分析しました。
- 驚くべきことに、これらの銘柄の株価の単純平均は、2022年11月以降、TOPIX Small(小型株指数)を上回り、さらに12月以降はTOPIX全体をも上回るパフォーマンスを示しました。
- しかし、中央値( 外れ値の影響を受けにくい、ちょうど真ん中の値)で見ると、TOPIXを下回る時期もあるものの、集計期間を通じてTOPIX Smallとほぼ連動した動きとなりました。
- この結果は、対象銘柄の多くは市場平均並みかそれを下回るパフォーマンスだったものの、一部の特定の銘柄が大きく株価を上昇させ、単純平均を押し上げたことを示唆しています。
- 同研究所は、これが「事前予想に反する値動き」であり、この期間中に発生した他の大きな市場イベント(例:日本銀行の金融政策変更、大幅な円安とその後の揺り戻し、中国のゼロコロナ政策の大幅緩和など)の影響も考えられると指摘しています 。
市場は非常に複雑であり、指数の影響は株価を動かす多くの要因の一つに過ぎません。
先のニッセイ基礎研究所のデータが示すように、指数からの除外は予測可能な売り圧力を生み出しますが、それが株価を決定する唯一の要因ではありません。
企業固有のニュース、より広範な経済トレンド、そして市場全体の心理状態もまた、株価に大きな役割を果たします。
「段階的ウエイト低減銘柄」とされた企業の中には、そのファンダメンタルズの強さが他の投資家を引きつけたり、あるいはネガティブなニュースが既に株価に織り込み済みだったりしたケースもあるのかもしれません。
単純平均と中央値のパフォーマンスの乖離は、この複雑さを物語っています。
もし490社全てが除外圧力によって同様に業績不振に陥っていれば、平均値も中央値も大幅なアンダーパフォーマンスを示したはずです。平均値がアウトパフォームしたということは、一部の銘柄が指数効果のマイナス面を補って余りある強力なプラス要因を持っていたことを示唆しています。
また、TOPIXのような主要な指数に組み入れられるか、あるいは除外されるかということは、市場に対して企業の質、流動性、あるいはガバナンス基準の遵守状況に関する一種の「シグナル」として機能する側面もあります。
東証の改革は、TOPIXをより質の高い、投資しやすい企業群から成るベンチマークにすることを目指しています。
そのため、改革後のTOPIXへの採用は一定の品質・流動性基準を満たした証しとなり、逆に除外(または段階的低減)はこれらの基準を満たせなかったことを示唆するため、インデックスファンドによる機械的な売買だけでなく、一般の投資家の認識にも影響を与える可能性があります。
まとめ
- 対象銘柄指定
2022年10月:493社が「段階的ウエイト低減銘柄」に指定(流通株式時価総額100億円未満など)。 - 予想された影響
インデックスファンドによる保有比率引き下げのための売り圧力。 - 実際の短期影響(第1回低減日)
2022年10月28日(最初のウエイト低減日):
対象銘柄群はTOPIXに対し平均・中央値ともに約1.3%下落(ファンドの売りが要因と推察)。 - 観測された傾向(2022年10月~2023年1月 – 単純平均)
これら490銘柄の単純平均株価は2022年11月以降TOPIX SmallやTOPIXを上回る。 - 観測された傾向(2022年10月~2023年1月 – 中央値)
中央値のパフォーマンスはTOPIX Smallに近く、時にTOPIXを下回る。 - 単純平均が予想外の動きをした背景
一部の個別銘柄の好調なパフォーマンス、または広範な市場イベントが一部銘柄で指数効果を上回った可能性。 - 全体的なスケジュール
2025年1月末まで10回の四半期ごとの段階的低減(第1フェーズ)。
その後もTOPIX改革は継続予定(初回定期入替は2026年10月予定)。
これは、TOPIX改革に伴う「段階的ウエイト低減」が具体的にどのような影響を及ぼしたのか、特に株価動向についてまとめたものです。
数百社に及ぶ個別企業の株価を一つ一つ追うのは現実的ではありませんが、このように集計されたデータを見ることで、全体的な傾向を掴むことができます。
重要なのは、指数からの除外というネガティブな要因がありながらも、必ずしも全ての銘柄が大きく値を下げたわけではないという点です。これは、株価が多くの要因によって決まることを示しています。
別のレポートでも触れていますが、一連の動きから考えると、インデックスへの組み入れ(除外)は、その銘柄の本質的価値に影響を与えないという指摘の信憑性が増してくるように思えます。
しかし、指数からの除外が現実の売り圧力を生み出す以上、実際に除外される企業からすると楽観視できないことも間違いないでしょう。
初回定期入替は2026年10月予定です。
市場がどのように判断するのか注目していきたいと思います。