- タイトル:イノベーション・オブ・ライフ
- 著者等:クレイトン・M・クリステンセン (著)、ジェームズ・アルワース (著)、
カレン・ディロン (著)、櫻井 祐子 (翻訳) - 出版社:翔泳社
本書の構成は次の通りです。
序講
第1講 羽があるからと言って
◆第1部 幸せなキャリアを歩む
第2講 わたしたちを動かすもの
第3講 計算と幸運のバランス
第4講 口で言っているだけでは戦略にならない
◆第2部 幸せな関係を築く
第5講 時を刻み続ける時計
第6講 そのミルクシェイクは何のために雇ったのか?
第7講 子どもたちをテセウスの船に乗せる
第8講 経験の学校
第9講 家庭内の見えざる手
◆第3部 罪人にならない
第10講 この一度だけ
終講
謝辞
訳者あとがき
学びと共感
なぜ働くのか、どう生きるのか。
本書は、ハーズバーグの動機づけ理論を土台に、キャリアと家庭を同じ「戦略」思考で貫いています。著者はまず、外から与えられる報酬や肩書(衛生要因)を追い続けるほど、やがて満たされない空洞感に直面すると指摘しています。私たちを本当に駆り立てるものは、学びの成長、達成の実感、責任の拡大といった内発的な動機づけであり、それは仕事そのものの「中身」に宿るという指摘です。
そのうえでキャリア設計の核心として、意図的戦略と創発的戦略の二項を提示しています。意図的戦略とは予期された機会に集中すること、創発的戦略とは予期せぬ出来事から新たな道が立ち上がることです。
北米ホンダが大型バイク戦略から、故障対応を契機にスーパーカブへと舵を切った逸話も紹介されています。日々の意思決定の積み重ねが、資源(時間・お金・情熱)の流れを変え、結果として戦略を変えるので、戦略は一度の会議で決まるわけではありません。だからこそ、今の仕事が衛生要因と動機づけ要因の両方を満たすなら意図的に集中し、そうでないならスタートアップのように創発的に試し、仮説を明示して検証を回すべきだと著者は説きます。
また、ジョブズ不在期に迷走したアップルは、彼の復帰後「世界最高の製品で生活を変える」という規律で全社の焦点を揃え、資源の散逸を止めた一方で、ユニリーバの短期ローテーションは「シングルヒット」を量産する構造であるとの批評は、共感される企業の実務家の方が多いのではないでしょうか。
個人のキャリアでも同様で、達成動機が高い人ほど、すぐ成果が見える仕事に自らの資源を費やして、最も大切な家族への投資を後回しにしてしまう。直近1週間の時間とエネルギーの配分は、あなたの真の戦略を語っているという問いは痛烈で、読みながら自分自身を振り返って反省することしきりです。
キャリアに迷うビジネスパーソンはもちろん、マネジャーや親として自分を磨きたい人に強く薦めたい一冊です。