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書評:キーエンス解剖

キーエンス解剖 書評
  • タイトル:キーエンス解剖 最強企業のメカニズム
  • 著者等:西岡 杏
  • 出版社:日経BP

本書の構成は次の通りです。

目次
はじめに
プロローグ 語りかける化石たち

◆第1章 顧客を驚かせる会社
 なぜそれを知っている? 神出鬼没の営業パーソン
 異動のことまで把握 顧客の要望を先回り
 コラム キーエンス丸分かり

◆第2章 営業部隊が「先回り」できるわけ
 猛烈な成長スピード 3年目で「超一流」に
 商談のレベルを引き上げる 「ロープレ」1000本ノック
 アポは1日5件から 1分単位で書き込む「外報」
 何でもお見通しの「千里眼」 ウェブ企業さながらの分析
 時々刻々と変わる数字の正体 「営業がうまい」を可視化
 これは監視か救いの手か 上司の「ハッピーコール」
 購買部ではなく「工場」のそばに ビジネスは現場で始まる
 潜在ニーズを引き出す 「顧客取材力」の源泉
 事業部の壁を超えろ 京都で生まれた「ID制度」

◆第3章 期待を超え続ける商品部隊
 ここから機能追加? それでも間に合わせるスゴ腕
 顧客の「欲しい」 それでは遅い
 潜在ニーズと開発をつなぐ 企画部門の自負
 最後まで企画が関与 開発と丁々発止
 新車を明日納品するようなもの? 「即納」へのこだわり
 ファブレスなのに工場も 協力会社との蜜月をつくる

◆第4章 「理詰め」を貫く社風と規律
 「一人ひとりが社長」 賞与で経営の意識を育む
 時間も経営資源 「時間チャージ」
 会議の席は入った順 後輩も「さん」付け
 情報の囲い込みは「ダサい」 周りに広げてこそ
 社内にマルサ? 「内部監査」が目を光らす
 90年代には存在 マネジャー育てる「360度評価」
 ESなし、志望動機も不問 志望者の「本質」に迫る

◆第5章 仕組みの裏に「人」あり
 「飛び込みなし」「接待なし」は80年代から
 「カリスマではない」 創業者・滝崎氏の信念
 決意は高校時代 3回目の起業でチャンスつかむ
 「やってみなはれ」は もうかるなら

◆第6章 海外と新規で次の成長へ
 テスラのお膝元 米駐在員の奮闘
 成長余地は海外に いずれは7割にも
 スーツケースにデモ機を詰めて 1日1都市モーレツ巡業
 訪れた「海外比率3割の壁」 デジタル変革で突破
 「スターは不要」 アベレージヒッターを底上げ
 「おんぼろビル」から「栓抜きビル」へ 中国での躍進
 ローソンも飛びつくソフト データ分析が次の鉱脈

◆第7章 「キーエンスイズム」の伝道師たち
 ソフト会社にキーエンス流 ジャストシステムの変革
 OBが続々起業 キーエンス流があちこちに

おわりに

本書『キーエンス解剖』が主張するのは、キーエンスの圧倒的な高収益と高年収は、特定のカリスマや社員の根性論に依るものではなく、徹底的に仕組み化された「行動管理」と「利益還元」によって生み出されているという点です

彼らは、個人の能力に依存するのではなく、誰もが再現性のある高い成果を出せるよう、日々の行動を「見える化」し、組織全体で情報を共有する文化を築き上げているのです。

本書には、キーエンスの強さの源泉を紐解く、いくつかの論点があります。
印象に残った点をご紹介します。

  1. KPI管理の徹底とプロセスの重視
    多くの企業でもKPIは使われていますが、キーエンスは「顧客の前でどれだけデモを見せたか」という粒度で数十個ものKPIを設定し、それを徹底して記録します。
    これは、結果だけを管理するのではなく、結果につながるプロセス(行動)を管理するという思想に基づいています。
    日報への細かな入力や、商談後5分以内の記録といった暗黙のルールは、行動を「見える化」し、組織の資産とする文化を象徴しています。
  2. 営業の「型」と組織の役割分担
    営業ロープレに台本があるという事実は、彼らが「属人化」を徹底的に排除していることを示しています。
    まずは「型」を習得し、ひたすら数をこなすことで応用力を高める。
    そして、商品開発部門が顧客ニーズを吸い上げ、販売促進部門が日報を分析して営業にヒントを与えるなど、各部門が専門的な役割を担うことで、営業は本質的な活動に集中できる仕組みが構築されています
  3. 明確な利益還元と「自分事化」の文化
    平均年収2,000万円超という数字は、単なる結果ではありません。
    営業利益の一定割合(15%)を全従業員に年に4回の業績賞与として還元することが公開されています。会社の利益が上がれば自分の給与も上がるという透明性が、社員一人ひとりに「自分が社長ならどうするか」という当事者意識を強く根付かせています

本書は、キーエンスという一企業の成功事例にとどまらず、私たちの実務にも多くのヒントを与えてくれます。

  • 「行動の見える化」による生産性の向上
    あなたのチームや組織では、日々の行動がどれだけ「見える化」されていますか? 日報や報告書を形骸化させず、「行動していても書かなければやっていないのと同じ」という意識を共有するだけで、組織全体の生産性は大きく変わる可能性があります。
  • 「型」を共有し、組織の資産を築く
    成功した商談やプロジェクトの進め方を、個人の経験知として終わらせていませんか? ロープレの台本のように、成功の「型」をドキュメント化し、組織全体で共有することで、チーム全体のパフォーマンスを底上げできます。特に若手の育成においては、非常に有効なアプローチです。
  • 「なぜ」を突き詰めるコミュニケーション
    キーエンスの社員は、「どう聞かれるか」を常に意識して論理を組み立てます。これは、無駄な確認作業をなくし、組織全体のスピードを上げるためです。私たちも、日々の会議や報告において、「なぜその結論に至ったのか」「どのような根拠があるのか」を明確にする習慣を持つことで、コミュニケーションの質を格段に高められるでしょう。

『キーエンス解剖』は、単なる企業分析本ではなく、「再現性のある強い組織」の作り方を教えてくれる一冊です。

ハードワークを強要するのではなく、論理的かつ合理的な仕組みによって、社員の自発的な行動と高い成果を引き出すキーエンスの哲学は、多くの経営者やビジネスパーソンにとって、非常に示唆に富んだものです。

もしあなたの組織が、個人の力量に依存していると感じるなら、本書は一読の価値があります。徹底された仕組みが、いかにして圧倒的な成果を生み出すのか、その秘密が詰まっています。

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