若手社員の管理職回避の深層 Part.1

人事・総務の話題

現代の日本企業、とりわけ中堅・中小企業の経営者が直面している最大の課題の一つは、次世代リーダーの枯渇です。

日本能率協会マネジメントセンターのレポートによると、一般社員の約77%が「管理職になりたくない」と回答し、20代・30代の若手ほどその傾向が顕著であるという事実は、組織の持続可能性を揺るがしています 。

しかし、最新の日本マンパワーの管理職意識調査(2025年10月実施)を精査すると、興味深い「ギャップ」が見えてきました。外から見れば「過重な負担と責任ばかりの罰ゲーム」に見える管理職ですが、実際にその任にある人の約44%は「今後も続けたい」と考え、4割近くが「最初からなりたいと思っていた」と回答しています 。   

つまり、若手社員が管理職を避けるのは、単に責任を嫌っているからではありません。

「罰ゲーム化している上司」と「いきいきと個性を発揮する上司」の二極化を冷静に観察し、自社に前者のようなロールモデルしか見当たらない場合に、いわば自分たちの生存戦略として「スペシャリスト志向」という名の回避策をとっていることが見えてきます。

本レポートでは、若手が抱く懸念の正体と、組織として取り組むべき「管理職の価値再定義」について解説いたします。

自分たちの会社の管理職が疲弊している姿を目の当たりにし、若手が「あんな風になりたくない」と考えてしまう背景には、10の要因があります 。 

① 部下の人数増に伴う負荷増

バブル崩壊後の失われた30年の中で、多くの日本企業は人件費削減と迅速な意思決定を掲げ、組織の「フラット化」を推し進めてきました。

この組織階層の削減や適性を持った人材の不足など様々な理由から、現場は常にリソース不足の状態にあり、課長級一人が抱える部下の数と役割が肥大化しています。

② プレイングマネジャーの常態化

短期的な業績志向が強まる中、管理職自らが大きな数字や目標を追いかける「プレイングマネジャー」としての活動が、当然の前提となっています。

自ら手を動かして目標を達成しなければならない状況下では、部下の育成やチームの戦略立案といった「本来の管理業務」が後回しにならざるを得ません。

管理職が最も多忙なプレイヤーであるという現実は、若手社員に「管理職になっても、今の忙しさに加えてさらに責任を負わされるだけだ」という絶望感を与えます

自分の数字を追いながらマネジメントも行うという、もう「無理ゲー」状態です。

③ 経営陣からの「ムチャ振り」

根拠の乏しい高い目標を現場に押し付けられるストレスです。

経営ビジョンを現場に落とし込み、現場の声を経営に吸い上げる「ミドル・アップダウン」の役割への期待は依然として高いものがあります。ですが、具体的なリソースや根拠が乏しいまま、高い目標だけを降ろされる「ムチャ振り」が、多くの管理職を疲弊させているのも、また現実です。

経営層と現場の板挟みになり、現場の反発を一身に受けながらも、上からの数字を必死に守らなければならない孤独な戦いが続いています。

④ 年上部下への対応

役職定年者などのマネジメントに伴う精神的コストが増大しています。

日本型雇用の変容により、管理職が自分より年上の部下、あるいはかつての上司をマネジメントするケースが増加しています。年齢や年次を重視する意識が根強い組織において、年上部下に適切な評価を下したり、厳しいフィードバックを行ったりすることは、管理職にとって極めて高い精神的コストを伴う作業になります。その結果、扱いづらい年上部下への配慮にエネルギーを奪われ、本来注力すべき若手育成が疎かになるという弊害も生じます。

⑤ 雇用形態の多様化

正社員、非正規、副業人材など、多様な価値観を束ねる調整業務の複雑化です。

かつての「正社員中心」の組織とは異なり、現在のチームは契約社員、派遣社員、パート、さらにはフリーランス、そして副業人材など、多種多様な雇用形態のメンバーで構成されています。それぞれの権利意識やキャリア観、働く目的が異なる中で、チームとしてのベクトルを合わせる調整業務は、かつての数倍の難易度と言ってよいでしょう。

仕事の切り出し一つをとっても、雇用契約の範囲や法的制約を考慮しなければならず、管理職のオペレーション負荷増大の一因になっています。

⑥ 働き方改革のしわ寄せ

部下の残業を抑制した結果、終わらない仕事を管理職が「巻き取る」現象が起きています。

働き方改革は非管理職の労働時間を短縮させましたが、現場の仕事量は必ずしも減っていません。その結果、部下が残業時間の上限に達して帰宅した後、終わらなかった業務を管理職が黙々と引き受ける「しわ寄せ」が発生しています。

パーソル総合研究所の調査によると、「働き方改革が進んでいる企業ほど、管理職の満足度が低い」という逆説的なデータもあり、これは現在の改革が管理職の犠牲の上に成り立っている可能性を強く示唆していると考えられます。

⑦ ハラスメントへの過剰警戒

ハラスメントへの過剰警戒から「叱れない」「指導できない」ことは、管理職が萎縮する要因です

コンプライアンス意識の高まりは本来歓迎すべきことですが、現場では「何がハラスメントに当たるのか」という過剰な警戒心が、必要な指導さえも躊躇させる事態を招いているケースも存在します。

ハラスメント研修が「NG行動」の強調に偏ってしまうと、管理職は部下との接触を恐れ、率直なフィードバックを避ける「気を使うだけの上司」にならざるを得ません。

部下がミスをしても厳しく叱咤しない管理職は約8割に上り、これが組織の規律低下のみならず、管理職自身のフラストレーション蓄積を惹起しています。

⑧ メンタルヘルス管理の重圧

部下の不調への対応が、管理職自身のメンタルダウンを引き起こす連鎖が生じています。

働く人のメンタル不全が増加する中、部下の心の健康を守ることも管理職の重要な任務となっています。しかし、一度部下が休職に追い込まれると、復職が前提とされるために新たな人員補充が行われないことも多く、残されたメンバーと管理職がその負担をすべて背負うことになります。

人手不足の中で無理をして業務を回し続けた結果、最終的には管理職自身がメンタルダウンしてしまうという、共倒れの連鎖も見られます。

⑨ コミュニケーション負荷の激増

1on1など丁寧な対話が求められると、どんどん管理職の時間は削られています。

「会社がキャリアを保証する」時代から「個人が自律的にキャリアを築く」時代への移行に伴い、管理職には部下一人ひとりの価値観に寄り添った丁寧な対話が求められるようになりました。

定期的な1on1ミーティングの実施は、従来の「背中を見て育て」というスタイルに比べ、膨大な時間と高度なコミュニケーションスキルを必要とします

管理職全員が、時間もスキルも備えているわけではありません。業務で忙殺される中、あるいは十分なコミュニケーションスキルを持たない中で、試行錯誤しながら心理的安全性を確保しながら対話に努力する管理職の疲弊は、相当に高いものがあります。

⑩ 雑多な事務の存在

細かな事務作業や確認作業を管理職が抱え込むようになっており、より付加価値の高い業務を行うべき管理職が、雑多な事務や確認に時間を取られています

課長は部下の出張精算の確認や立替清算などすべての承認行為を承認せねばならず、すべての見積もりを確認せねばならず、すべての基幹システムの登録内容のWチェックを行うなどという実態は管理職を疲弊させ、若手からの魅力を削ぐ一因となっています。

これら雑多な事務に忙殺される管理職の背中を見て、若手は「忙しすぎる」「責任ばかり増える」「ワークライフバランスが取れない」というネガティブなイメージを固めていくのです。

これら10個の要因に加えて、若手が管理職を拒む最大の理由は「給与逆転現象」です。

特に中堅・中小企業の現場では、残業代が全額支給される一般社員時代よりも、役職手当がつく管理職(管理監督者)になった後の方が、手取り額が減ってしまうケースが存在します。

これは、プレイングマネジャーとして一番忙しい課長の残業代を抑制するために、意図的に労働基準法上の管理監督職として扱い、残業支給の対象外として運用しているケースもありますし、そもそも世間一般の「課長=管理職」というイメージと、労基法上の管理監督職を混同しているケースもあります。

「管理監督者」とは?

労働基準法第41条第2号に規定される「管理監督者」は、労働時間、休憩、休日に関する規定が適用除外になります。

これを根拠に、多くの企業では「いわゆる管理職」に対して残業代を支払わない運用を行っています。

(労働時間等に関する規定の適用除外)
第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
※太字・下線は筆者編集

この「管理監督職」に該当するかどうかは、慎重に判断しなければなりませんが、該否の基準が明確でなく曖昧さが残るために、企業実務においてはかなり幅のある運用になってしまっています。

また、一般的な「管理職」という言葉と、労働基準法における「管理監督職」を混同して、「課長や店長などの現場管理者=管理監督職」としているケースもあります。

そのため、結果的に本来の要件を満たさないにもかかわらず、管理監督職として扱われる管理職が生まれてしまうのです。

名ばかり管理職の法的リスクと現場の不満

法的に「管理監督者」と認められるためには、次の要件を満たす必要があります。

項目管理監督者の法的要件
(実態)
現場で起きている
「名ばかり」の実態
経営者と一体的な立場での
職務(権限・責任)
採用や異動、人事考課、
業務割当の決定権、
費用支出など財務面の決定権
単なる現場リーダー、
上からの伝達役
労働時間の裁量出退勤が自由、
厳格な時間管理を受けない
タイムカードで管理、
会議で拘束される
待遇の妥当性残業代不支給を補う
相応の待遇(年収)
残業代込みの部下より
手取りが低い

中堅・中小企業における課長や店長等の管理職では、この3つの要件を満たしていないにもかかわらず、管理監督職として残業代を支給対象外として扱われているケースが存在します

権限も裁量もないまま役職名だけを与えられ、残業代だけがカットされてしまう管理職は”名ばかり管理職”と呼ばれます。

管理職になる前に残業代の支給対象であった社員が管理職(課長等)に昇進した際、付与される「役職手当」の額が、消失する「残業代」を補いきれない場合、その管理職にとっては給与の減少という看過し難い現象になりますが、経営目線では削減できた残業代の分だけ人件費が節約できることになります。

ここに”名ばかり管理職”を生み出す構造的な要因が存在します。

管理職に昇進する前に多くの残業をしていたケースでは、基本給が増え役職手当がついたにもかかわらず、手取り額が月数万円単位で減少したという例も聞かれます。

若手社員にとって、責任が増え、自由時間が減る上に、収入まで下がるという変化は、キャリアアップではなく「経済的損失」でしかありません。さらには、組織に対する致命的な不信感の源泉にもなってしまうでしょう。

この構造的な不備を放置したまま管理職を勧めても、今の若手には通用しません 。

項目一般社員(昇進前)管理職(昇進後)
残業代働いた分だけ全額支給管理監督職として
支給対象外になるケースあり
手取り額残業が多いと高額になる残業代が消え、
総額が下がる例も
時給換算労働時間に見合う深夜・長時間労働で
時給が激減

若手が「専門性を身に着けたい」と言う背景には、終身雇用が崩壊した時代における強い不安があります。つまりそれは、社内でしか通用しない「特殊能力」よりも、どの会社でも通用する「市場価値(ポータブルスキル)」を求めているということです。

労働市場における価値の追求

企業の経営者や人事は勿論ですが、社員も学生も雇用の流動化が進んでいる現実を直視しています。

大企業であっても黒字リストラが断行される昨今だからこそ、若手社員は「この会社でしか通用しない自社オリジナルの基幹システムの習熟や、経営者や上司の意向把握(忖度力)を磨くことに、高いリスクを感じているのです。

彼ら彼女らが求めているのは、どの会社に行っても通用する「専門性」という名の「ポータブルスキル(持ち運び可能なスキル)」です。

エンジニアリング、デジタルマーケティング、財務、法務といった特定の領域で深い知識と実績を積むことは、その人たちにとって「真の安定」を意味します。

一方、日本型の中間管理職に求められるスキルの多くは、その会社でしか活きないスキルであり、また人間関係や手続きを円滑に進めるためのスキルとして、「内向きのスキル」として捉えられており、転職市場における価値が低いと見なされているのです。

「専門性」という名の最強の保険

雇用の流動化以外に、若手社員が自らの市場価値を高めたいと考える背景には、リーマンショックやコロナ禍のような想定外の「キャリアショック」への備えがあります。

自分の価値を数値や具体的な成果や資格で示せるスペシャリストであれば、万が一の事態にも再就職が容易であり、特定の組織に忠誠を誓うよりも、自分自身の専門性に忠実である方が合理的であるという結論に達しているのです。

キャリア戦略重視するスキルメリット転職市場での見られ方
スペシャリスト志向テクニカルスキル、
特定分野の実績
専門特化による
高単価、自律性
「何ができるか」が
明確で即戦力
旧来型マネジャー志向社内調整、進捗管理、
部下育成
(ティーチング)
組織内での昇進、
総合力
「その会社以外で
何ができるか」が
不明瞭

経営者から見れば「もっと広い視野を持ってほしい」と思うかもしれませんが、若手にとっての「広い視野」とは、社内の上や他部門を見る力ではなく、社外の労働市場全体を見る力を指しています

この視点の乖離が、管理職回避とスペシャリスト志向のギャップをより深めている要因です。

ここまで見てきた通り、若手社員が管理職を避ける理由は、単なる「責任感の欠如」や「ゆとり世代の甘え」ではありません。

肥大化する業務負荷、複雑化する人間関係、そして昇進した途端に手取りが減るという報酬体系の矛盾。これらを冷静に観察した結果、彼らは「管理職になることのリスクが、リターンを大きく上回っている」と正しく判断しているに過ぎないのです。

そして、「スペシャリスト志向」は、会社に依存せず、自分の身を自分で守るための「最強の保険」です。

この構造的な課題を放置すると、優秀な人材ほど組織から、あるいは管理職という選択肢から離れていく一方でしょう。

【次回予告:Part.2のご案内】
では、企業はこの「絶望的な状況」をどう打破すべきなのでしょうか?

次回のPart.2では、若手社員が再び「管理職」というキャリアに希望を見出すための、具体的かつ抜本的な対処方法を解説します。

明日から取り組むべき実践的な処方箋をご提示します。

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