キャリアデザインとは?
「将来なりたい姿や働き方などを自分自身で主体的に設計すること」
キャリアデザインとは、職業人としての将来なりたい姿や働き方などについて設計することです。ただ、キャリアデザインには「働き方」だけでなく、「生き方」も含んだ広い意味で使われる場面もあります。
自分のキャリアを主体的に設計していくことの重要性が認識され、今は大学でキャリアデザインの授業がありますし、これをテーマにした研修を実施している企業もあります。
ただ、将来のキャリアは本当に設計できるのでしょうか?
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キャリアがデザインできるという幻想
キャリアデザインは計画通りに進まない。
例えば、学生時代に将来の姿や働き方を悩みに悩んで精緻に設計したとしても、思い描いた通りのキャリアが実現する人は、どのくらい存在するでしょうか?
- 思い描いていた企業の内定がもらえなかった
- 希望した部門に配属されなかった
- 人事異動で、自分の専門分野とは畑違いの部門に異動となった。
- はじめは熱意を持って取り組めていたが、途中から関心が持てなくなった
- 家族の事情で、仕事を辞めざるを得なくなった
- 今の仕事以上に、もっとやりたい仕事が出てきた
理由を挙げればキリがないくらいで、自分が設計した通りのキャリアを歩める人よりも、思うようにならないことの方が多いのが現実です。
キャリアデザインが計画通りに進まない理由
- 予期せぬ出来事や環境の変化
社会・経済の変動: 景気の波、新しい技術の登場、業界の再編など。
会社の状況変化: 倒産、買収、事業縮小、組織変更、異動など。
個人的な出来事: 病気、怪我、家族の事情(結婚、出産、介護など)。 - 自分自身の変化
価値観の変化: 年齢や経験を重ねる中で、仕事に求めるものや大切にしたいことが変わる。
興味・関心の変化: 新しい分野に興味を持ったり、今の仕事への情熱が薄れたりする。
スキルの変化: 新しいスキルを習得したり、自分の強みや弱みが明確になったりする。
このように、キャリアデザインが計画通りに進まない理由には、自分ではコントロールできないものも多く含まれています。
10年先、20年先の自分を詳細にデザインしたとしても、その通りに実現することは稀でしょう。
つまり、そもそも将来のキャリアとは、事前にデザインした通りに実現する性質のものではないのです。
計画的偶発性理論
スタンフォード大学のクランボルツ教授らが提唱した「個人のキャリアの8割は、偶然の出来事によって決定される」という考え方があり、これは計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)と呼ばれます。
1999年に提唱された理論ですが、キャリアが偶然の出来事によって大きく左右されるというこの理論は、VUCAといわれる現代のキャリア論において、ますます重要な考え方になってきています。
キャリアデザインは無意味?
では、キャリアデザインは無意味なのでしょうか?
いえ、決してそんなことはありません。
ある時点で設計した将来のキャリアが多くの場合で思うように実現できないとしても、それがキャリアデザインの意義を損ねるということにはなりません。
次の通りキャリアデザインには複数の意義があります。
自らのキャリアを考えることは決して無意味ではないのです。
1. 羅針盤としての機能
キャリアデザインは、たとえその通りにならなくとも、進むべき方向性を示す羅針盤のような役割を果たします。
流れに身を委ねてキャリアを歩むのではなく、自分で自分のキャリアを創り上げていくという意識で、大まかな方向性だけでも定めておけば、日々の選択や学習において優先順位をつけやすくなりますし、予期せぬ出来事やチャンスが訪れた際に、それが自分の目指す方向と合致するかどうかを判断する基準にもなります。
2. 能力開発の促進効果
「こうなりたい」という将来設計を持つことは、その目標達成に必要なスキルや知識を特定し、自発的な学習や経験の機会を探すきっかけになります。
デザインしたキャリアが実現しなくとも、その過程で得られた学びや経験が、自分の知識や経験の幅を広げ、深めることに寄与します。
キャリアデザインは、自分自身の能力開発に直結しているのです。
3. モチベーションの維持
具体的な目標や「こうなりたい」というイメージは、日々の業務や学習に対するモチベーションを維持する原動力となります。
困難に直面するなどモチベーションが落ちたときでも、自らが描いたキャリア像を思い出すことで、モチベーションを喚起し、継続的な努力がしやすくなります。
4. 偶然性を最大限に活かすための準備
キャリアが偶然性に満ちているとしても、その偶然性をただ受け入れるだけでなく、それを最大限に活かすことが重要です。
キャリアデザインは、その偶然性を活かすための準備と捉えることもできます。
自分が関心のある分野・価値観・強み・弱みなどを、キャリアデザインを通して明確にし、自己理解を深めることは、予期せぬ機会が訪れた際に、それが自分にとって意味のあるものか、どのように活かせるのかを判断し行動に移すうえで大いに役立ちます。
偶然を主体的に活かすための準備というわけですね。
クランボルツの理論でも、偶然性の重要性を説いているだけではありません。偶然の出来事をネガティブに捉えるのではなく、むしろキャリアを豊かにするチャンスと捉え、それを活かすための行動を意識的に取ることの重要性も説いています。
5. 柔軟な軌道修正の土台
キャリアデザインは、固定的なものではなく、むしろ変化を前提とした柔軟な指針であるべきです。
将来の姿を一度描いたとしても、状況の変化や自己の成長に合わせて、デザインを見直し、修正していくことが重要です。このプロセスを通じて、変化への適応力が高まりますし、様々な選択肢に直面した際に、自分が何を大切にし、何を目指しているのかという軸があれば、より納得感のある意思決定ができます。
最初にデザインした「羅針盤」があるからこそ、その後の変化を認識し、どこをどのように修正していくべきかを検討しやすくなるというわけです。
まとめ
キャリアが偶然性に大きく左右されるという前提に立つと、「なぜ将来のキャリアをデザインするのか」という問いはもっともです。
しかしながら、これまでご紹介した通り、キャリアデザインには羅針盤としての意味などデザインした結果そのものが持つ意味のみならず、そのプロセスにも大きな意味があるのです。
偶然性に左右されるキャリアにおいて、私たちがコントロールできるのは、自身の内面を理解し、自らを磨き、準備し、そして現れた機会にどう反応するか、という部分です。
キャリアデザインは、この「コントロールできる部分」を最大限に活用し、より充実したキャリアを築くための強力なツールといえるのではないでしょうか。