TOPIX(東証株価指数)は、日本の株式市場の動向を示す代表的な指標ですが、市場構造の変化に対応し、より実態を反映した指数となることを目指して、近年大きな見直しが進められています。
特にTOPIX構成銘柄から外れる可能性がある企業の担当者にとっては、いつ、何が、どのように変わった(変わる)のかを正確に把握し、適切な対策を講じることが重要です。
今回は、TOPIX改定の最近の変遷と今後のポイントを整理しました。

TOPIX改定の経緯と目的
今回のTOPIX改定は、2022年4月に行われた東京証券取引所の市場区分見直し(プライム市場、スタンダード市場、グロース市場への再編)と連動して始まりました。
主な目的は、TOPIXの構成銘柄を選定する基準を見直し、指数の市場代表性や機能性を向上させることです。
主な変更点とスケジュール 「いつ・何が・どう変わったか」
TOPIXの見直しは、大きく分けて以下の2段階で進められており、すでに第1段階は完了しています。
第1段階:流通株式時価総額による見直し(2022年4月~2025年1月)
変更点
- 2022年4月1日時点でTOPIXの構成銘柄だった企業のうち、「流通株式時価総額が100億円未満」の銘柄は、「段階的ウェイト低減銘柄」とされました。
- 「流通株式」とは、市場で実際に売買される可能性の高い株式を指し、10%以上の大株主の保有分や自己株式など流通可能性が認められない株式を除いたものです。
スケジュールと影響
- 2022年10月~2025年1月
流通株式時価総額100億円未満で見直し対象となった銘柄は、四半期ごとに段階的にTOPIXにおける構成比率(ウェイト)が引き下げられました。 - 2025年1月最終営業日
上記の段階的なウェイト低減措置が完了し、基準を満たさなかった銘柄はTOPIXの構成比率がゼロとなり、完全に除外されました。
第2段階:より流動性を重視した見直し(2026年10月以降~)
第1段階の完了後、TOPIXは新たな基準に基づく構成銘柄の選定へと移行します。
なお、次期TOPIXへの円滑な移行や市場影響の緩和の観点から、周知や移行の期間を十分確保することとされており、初回の定期入替は2026年10月になります。
変更点
- 選定対象市場の拡大
プライム市場だけでなく、スタンダード市場、グロース市場に上場する銘柄もTOPIXの構成銘柄の選定対象となります。 - 新たな選定基準の導入
流通株式時価総額に加えて、「年間売買代金回転率」「浮動株時価総額の累積比率」の二つの流動基準が導入されます。
この変更により、単に時価総額が大きいだけでなく、実際に活発に取引されている、またそれだけの浮動株が流通する銘柄が選ばれやすくなります。
指標 | 追加基準 | 継続基準 |
年間売買代金 回転率 | 0.2以上 | 0.14以上 |
浮動株時価総額の累積比率 | 上位96%以内 | 上位97%以内 |
年間売買代金回転率
定期入替基準日が属する月以前、直近12か月間の月次の売買代金回転率の合計です。
月次の売買代金回転率は、
「(日次の東証の売買立会での売買代金の中央値×営業日数)÷ 月末最終営業日の浮動株時価総額」
です。
浮動株時価総額の累積比率
整理銘柄又は特別注意銘柄でなく、年間売買代金回転率の条件を満たす銘柄群において浮動株時価総額が大きい銘柄から累積した浮動株時価総額÷当該銘柄群の浮動株時価総額の合計です。
スケジュールと影響
- 定期的な入れ替えの実施
✓初回の銘柄入れ替え
2026年10月最終営業日に実施予定です。この入れ替えでTOPIXの構成から外れることになった銘柄(移行措置銘柄)は、すぐに除外されるのではなく、2026年10月から2028年7月まで四半期ごとに8回(均等)で段階的にウェイトが低減されます。
✓移行措置銘柄の再評価
2027年10月に、移行措置銘柄に対して継続基準(年間売買代金回転率0.14以上、浮動株時価総額の累積比率で上位97%以内)を満たしているかの再評価が行われます。基準を満たせば、ウェイト低減が停止されます。
✓2回目の銘柄入れ替え
2028年10月最終営業日に実施予定です。基準日は8月最終営業日ですのでご注意を。2回目は初回の入れ替えから2年後です。
✓2028年10月以降
毎年10月の最終営業日に定期的な銘柄入れ替えが実施される予定です(基準日は8月最終営業日)。
- 非定期な入れ替えの実施
プライム市場・スダンダード市場・グロース市場への新規上場銘柄で、浮動株時価総額が、同累積比率上位95%に含まれる銘柄の最低 浮動株時価総額を上回る銘柄は、定期入れ替えのタイミングでなくともTOPIXに追加されます。
新規上場銘柄が条件ですので、これら条件を満たす銘柄はとても限定的になりそうです。
企業の対応ポイント
構成銘柄に残るか、除外されるかのボーダーにいる企業の担当者は、どうやって残留するかを考える日々ではないかと思います。
- 自社の現状把握が不可欠
今後のTOPIX構成銘柄としての適格性を維持するためには、まず自社の「流通株式時価総額」および「年間売買代金回転率」などの流動性指標を常に把握しておくことが不可欠です。ご担当者は、当然、把握済みかと思います。 - 情報収集の徹底
日本取引所グループ(JPX)のウェブサイトなどで公表されるTOPIXの見直しに関する最新情報を常に確認し、主幹事証券から正確な情報提供を受けることも欠かせません。 - 2026年8月(基準日)が大きな節目
当落線上にある場合、この初回の銘柄入れ替えは、企業にとって大きな影響が予想されます。
基準を満たせない可能性がある場合、企業価値向上策(業績向上、IR活動の強化など)や株式の流動性向上策(個人投資家向け広報の強化、株式分割の検討など)を早期に検討・実行することが求められます。
TOPIXから除外された場合の主な影響
- 株価への影響
TOPIXに連動する多数のインデックスファンドやETFが存在するため、構成銘柄から除外されると、これらのファンドからの売り需要が発生し、株価の下落圧力となる可能性があります。 - 市場からの注目度
TOPIX構成銘柄であることは、一定の市場評価や信用の証と見なされる側面もあるため、除外されることで市場参加者からの注目度が相対的に低下する可能性も考慮に入れる必要があります。
まとめ
TOPIXの改定は、日本市場の質的向上を目指す重要な動きです。
一連の見直しで、TOPIXの構成銘柄は2022年4月時点の約2,200銘柄から2025年1月末の後で約1,700銘柄になっています。それが見直しが完了すると最終的に約1,200銘柄まで絞られる見込みです。そして、構成銘柄の1日当たり売買代金や浮動株時価総額の中央値は、現在の約2倍に増加する結果となっています。
TOPIXに連動したパッシブ運用をスムーズに行うためには、構成銘柄に一定の流動性(浮動株時価総額や売買代金)が必要になりますが、新TOPIXではパッシブ運用がよりスムーズになりそうです。
ボーダーに位置する企業の取り組みも注目されますが、TOPIXから外れる企業は株価の下押し圧力や出来高の減少圧力が発生しますから、どのように株価を挽回するのか、各社の取り組みも注目されます。最悪、上場維持基準に抵触する可能性もありますよね・・・
ちなみに、S&P 500を対象とした過去の研究では、インデックスへの新規採用が株価上昇につながる一方で、除外による株価下落の効果は近年弱まっていることが示唆されています。また、投資家が事業のファンダメンタルズを重視する傾向が強まっているため、除外による変化の程度は縮小しているとの指摘もあります。これらの指摘は、インデックスへの組み入れ(除外)は、その銘柄の本質的価値に影響を与えないという立場に立っています。
とはいえ、この研究でもインデックスからの除外が公表されると株価が下落すると指摘されています。
やはりTOPIXから外れる企業の経営者やIR担当者は戦々恐々とされているでしょう。
ですが、自社の状況と照らし合わせながら、中長期的な企業価値向上と市場とのコミュニケーションに取り組む他ないと思われます。
まだもう少し時間がありますので、この時間を有効に活用いただければと思います。