ロミンガーの法則は、「人は経験から7割、人からの助言や指導から2割、研修や本などから1割学ぶ」という考え方で、人が成長するために何が最も重要かを示した法則です。
今回は、このロミンガーの法則について、ご紹介してまいります。
学びの7割が、”経験”
人は”経験”から7割を学びます。つまり、実際にやってみることが大事というわけです。
例えば、部活動でレギュラーを目指して練習したり、文化祭の実行委員として企画を考えたり、ボランティア活動に参加したり、といった「実際に自分で行動して体験すること」が一番成長につながるということです。
成功も失敗も、すべてが学びの機会になります。
仕事に置き換えると、まさにOJTが重要ということですが、OJT以外でも人は様々な経験を通じて成長します。
例えば、若手営業が、先輩社員と顧客の事務所に同行するにあたり、提案資料の作成と客先での説明を任されたり、訪問記録を作成するなどが挙げられます。
またOJTを受ける側でなく、OJTのトレーナー役を任せられるのも有益です。自分がこれまで培ってきた知識やスキルを言語化して伝えることで、自身の理解を深めることに役立ちますし、後輩の成長を支援する中で、指導力、コミュニケーション能力を伸ばすことも期待できます。
失敗からの学びの例を挙げると、製品に関する品質問題が発生した場合、その原因究明から改善策の立案、再発防止策の実行まで、一連のプロセスに当事者として関わることで、品質管理と危機管理に関する貴重な経験が得られ、それが当事者の成長を促進させてくれることでしょう。
品質問題ほど深刻な例でなくとも、なぜ受注できないのかを分析し、そこから学ぶことで、次回の成功につなげるといったことも考えられます。
自分の頭で考え、試行錯誤して課題を乗り越える経験が、最も大きな学びをもたらします。企業経営において、従業員に経験の場を提供し、失敗を許容しようと言われる所以ではないかと思います。
AI活用による経験のブラックボックス化が懸念される今、今後、このような経験をどのように確保するかが課題になってくるでしょう。
学びの2割が、”人からの助言や指導”
学びの2割は、”人から教えてもらうこと”です。つまり、助言や指導から学びます。
例えば、部活の先輩や先生、親や友達など、周りの人から「こうした方がいいよ」「もっとこうしてみたら?」とアドバイスをもらったり、指導してもらったりすることです。
多くの場合、自分一人では気づけないことに気づかせてもらえます。
会社においては、1on1ミーティングや人事考課のフィードバックが、例として挙げられます。
他にも、成功事例・失敗事例の共有も挙げられます。上司が自身の過去の成功体験や、失敗から学んだ教訓を部下に共有することで、部下は擬似的に経験を積むことができ、より深く業務を理解したり、リスクを回避する方法を学んだりすることができます。
例えば、「あの時の顧客対応は、実は裏で〇〇という課題があったから、このように進めたんだ」といった背景を含めた話は、部下にとって貴重な学びになるでしょう。
加えて、明示的な助言や指導だけでなく、自らが自然と感じる学びも含まれると考えられます。直接的な助言や指導ではない“薫陶”は、その最たるものです。
“薫陶”とは「人徳や品格のある人物から影響を受け、人格が磨き上げられること、感化されること」です。「あの上司のようになりたい」と感じ、自分の行動を変えた経験を持つ方もいるはずです。
学びの1割が、”研修や本”
学びの1割は、”本や講習での学び(研修・自己啓発)”です。
学校の授業で知識を学んだり、参考書を読んだり、講演会を聞いたりといった「座学で知識を得ること」はもちろん大切ですが、成長するための貢献割合としては一番小さいということです。
ただ、研修や本による学びは、体系的な知識を習得するうえで有効です。割合が少ないから、本や研修による学びが重要ではないと誤解しないようにしましょう。
OJTでは実際の業務を通して現場で必要なことを学びます。そのため、すぐに業務で役立つスキルやノウハウが習得できます。ただ、体系的な学びという点では、研修や本による学びの方が優れています。また、本や研修による学びは、広い視野を養ううえでも重要です。
しかし一方で、研修や本から得た知識は、それ単独では「頭でっかち」になりがちです。本当に血肉となり、スキルとして定着し、業務で応用できるようになるためには、その知識を「使ってみる」という経験が不可欠です。
例えば、プレゼンテーションのスキルを本で学んでも、実際に何度もプレゼンを経験し、失敗と改善を繰り返すことで初めて身につきます。また、研修で習ったリーダーシップ論も、実際にチームを率いて困難に直面し、試行錯誤する中で真のリーダーシップが育ちます。
ロミンガーの法則は、この「実践と経験」が最も重要であると強調しているわけで、研修や本から得る学びの重要性をスポイルするものではありません。
人材育成でロミンガーの法則(70:20:10の法則)を活用するために
人材育成でロミンガーの法則(70:20:10の法則)を活用するためには、その原則を知るだけでなく、具体的な施策に落とし込む際の注意点があります。
「70%の経験」は単なる放置ではない
ロミンガーの法則が「経験が7割」と言うと、「とりあえず現場でやらせておけばいい」と誤解されがちですが、ここでいう「経験」は、意図的かつ質の高い経験を指します。
つまり、単純作業の繰り返しではなく、本人の少し上のレベルで挑戦できるような、目標設定された役割やプロジェクトを与えることが重要です。
次に、その経験から何を学んでほしいのか、どのような成果を期待するのかを事前にしっかり伝えることで、単なる業務ではなく「学びの機会」として意識させることができます。
そして、新しい挑戦には失敗がつきものです。
失敗を非難するのではなく、そこから何を学んだか、次にどう活かすかを考えさせる「失敗を許容することが必要です。トライ&エラーができなければ、得られる経験は限定されてしまいます。
「20%の助言・指導」の質とタイミング
上司や先輩からの助言・指導は、経験を効果的な学びにつなげるための重要な要素です。
具体的には、まず定期的なフィードバックで、一方的な指示ではなく、業務の途中で「良かった点」「改善点」「次にどうすべきか」を伝える定期的なフィードバックの機会を設けることが重要です。
そして、フィードバックは、行動と結果が結びついているうちに速やかに行う方が効果的です。
次に、傾聴と質問です。
指導者が一方的に教えるティーチングではなく、部下の考えや悩みを聞き出し、質問を通じて気づきを促すコーチング的なアプローチも重要です。
そのためには、コーチングを行う管理職や先輩社員の育成も必要です。
指導する側が、フィードバック・コーチング・傾聴などの育成スキルを持っているとは限りません。コーチングを行う管理職や先輩社員に研修を行い、指導の質を底上げする必要があります。
「10%の研修・読書」は基礎固めと視野拡大
ここでの学びが、残りの90%の学びの土台になります。あるいは経験を補完し体系的な学びを得ることにつながります。
10%だからといって軽視してはいけません。
すでにお伝えしている通り、研修や読者が経験では得られない体系的な知識や、広い視野を与えてくれるのです。
研修・読書を生かすための注意点の一つ目は、インプットの多様化です。
集合研修と読書だけでなく、eラーニング、外部セミナー、他流試合(越境学習は座学ではなく、むしろ7割の経験に該当しますね)など、多様な学習機会を提供し、本人の興味や課題に合わせた選択肢を増やすことが有効です。
そして、学習の継続とアウトプットです。
一度研修を受けて終わりにするのではなく、継続的な学習の習慣を奨励し、またインプットをアウトプットする場を設けることで、知識の定着と深化が図られます。
まとめ
ロミンガーの法則は一般的な傾向を示すものです。したがって、これに囚われすぎないように注意しましょう。
それぞれの学習スタイル、経験、キャリアや目標によって、最適な学びの割合は異なります。全員一律の固定的なものではありません。新入社員とベテラン、営業職と技術職など、個々の役割や経験に応じて、70:20:10の割合は変わります。
ロミンガーの法則(70:20:10の法則)は、1980年代に米国のCCL(Center for Creative Leadership: クリエイティブ・リーダーシップ・センター)の研究者であるモーガン・マッコール(Morgan McCall)、マイケル・ロンバルド、ロバート・アイチンガーによって提唱されました。
両氏は、成功した経営幹部がどのようにスキルを習得し、成長してきたかを調査・分析し、その結果からこの「70:20:10」という割合を見出しました。
そして、その後、マイケル・ロンバルドとロバート・アイチンガーがCCLを離れてロミンガー社(Lominger International)を設立し、そこでこの法則を広め、人材開発のフレームワークとして普及させたのです。
そのため、ロミンガー社の名前が法則と強く結びついて「ロミンガーの法則」と呼ばれるようになりました。
ロミンガーの法則は、人材の能力開発における指針になりますが、これまで概観してきた通り、活用にはポイントがあります。これら注意点を踏まえて活用されることが重要です。
