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書評:『新規事業の経営論 100億円超の事業をつくる18のシステム』

書評
  • タイトル:新規事業の経営論 100億円超の事業をつくる18のシステム
  • 著者:麻生要一
  • 出版社:東洋経済新報社

株式会社アルファドライブ代表取締役社長兼CEOである麻生要一氏による著書です。前作『新規事業の実践論』(5万部突破のロングセラー)から6年、260社を超える企業への伴走支援を通じて得た知見を体系化した一冊とのことです。

新規事業を「単体」で終わらせない発想

まず目を引いたのは、グロース上場企業の平均値というデータです。創業から上場まで10年、上場時の売上は30億円、経常利益は3億円、成長率は40%という数字が示されており、新規事業が育っていく過程の「相場観」として参考になりました。

本書の核となるのは、新規事業を単体で放置するのではなく、企業全体を機能させる重要な要素として位置づける「新規事業経営」という考え方です。

事業開発(外部連携)・事業開発(内製)・人と組織という3つのレイヤーを軸に、「0→0」の風土づくりから「100→X」の既存事業の業態変革まで、5つのフェーズにまたがる18のシステムとして全体像が整理されています。一つひとつの施策をバラバラに捉えるのではなく、相互に関連づけて経営システムとして機能させるという視点は、新規事業を「作って終わり」にしがちな組織にとって示唆に富む切り口だと感じました。

情報収集の出発点は「社会変化」と「技術革新」

本書では、「新規事業経営」の出発点として、調査カテゴリを「社会変化」と「技術革新」の2つに区分しています。

また、技術革新については、ガートナーのハイプサイクルなどを参考にしつつ、今後10年以内に社会実装を迎える技術は何か、その分野のスタートアップがどんな技術を用いているのかを調べ、「その技術でできること・できないこと」「その技術がもたらす新たな市場形成への見解」を語れるようになることをゴールに据えるべきだという指摘は、新規事業に関わる担当者が普段の情報収集をどう設計すべきか、具体的な指針になると感じました。

 ハイプサイクルとは?/ガートナー

ガートナーは、ハイプサイクルを次の通り位置付けています。

テクノロジやアプリケーションが成熟し、市場に採用されていく過程を可視化することで、それが自社のビジネス課題の解決や新たな事業機会の創出にどう関係してくるのかを見極めるためのフレームワーク

つまり、話題性だけで技術を評価するのではなく、「今この技術はどの成熟段階にあり、自社が投資判断を下すタイミングとして適切かどうか」を検討するための実務ツールと解釈できます。

その進行は、次の5つの段階で表されます。

  • 黎明期:
    技術的なブレイクスルーや話題性のある製品発表がきっかけとなり、注目され始める段階
  • 「過度な期待」のピーク期:
    メディアや業界内で大きな注目を集め、実証が追いつかないまま期待だけが先行する段階
  • 幻滅期:
    実証実験や初期導入が期待した成果を生まず関心が薄れ、提供企業の淘汰が進む段階
  • 啓発期:
    技術が企業にもたらす価値が具体的な事例を通じて明らかになり、第2世代・第3世代の製品が登場し、より多くの企業が試験導入に踏み出す段階
  • 生産性の安定期:
    主流市場での普及が本格化し、提供企業の実力を見極める評価基準も明確になり、市場全体における適用可能性や有用性がはっきりと実証されていく段階

「ワイガヤ」はもうできない、という率直な指摘

新規事業経営における風土・機運醸成の重要性を説きつつも、著者は「今の時代、ワイガヤはできない」と指摘しています。

どの事業も人手が足りず、労働時間が制限され、生産性が至上命題となり、ガバナンス強化の中で社員一人ひとりに仕事の説明責任が求められるようになっている、というのがその理由です。この指摘には大いに共感しました。例えば、生産性の指標が人事評価の目標管理に落とし込まれ、その達成に四苦八苦している職場では、ワイガヤに時間を使うより、自分の仕事に取り組んだ方が良いという思考になります。「なるほど多くの職場で、こういった現象が発生しているのか」と考えさせられました。

ワイガヤは、かつて新規事業創出の定番とされてきた「雑談から生まれるアイデア」的なアプローチです。伝統的な新規事業創出のアプローチが、今の経営環境ではむしろ推奨しづらいという現実を率直に言語化している点に、共感される読者も多いのではないでしょうか。

オープンイノベーションは「内製の代替」ではない

オープンイノベーションについても、位置づけが整理されていました。あくまで内製の新規事業をベースとし、そこに付加する新要素を獲得するためのものであって、外部企業が自社のアセットをうまく活用して新規事業を作ってくれるものではない、という指摘です。

自社の能力だけでは超えられない壁にぶつかったときに、それを超えるための取り組み先を探すことが重要であり、その場合はCVCを通じた出資を伴う提携交渉が有力な選択肢になるとされています。「外部に丸投げすれば新規事業ができる」という誤解を戒める、実務家らしい視点だと感じました。

新規事業をつくることは「人をつくる」こと

新規事業をつくることは、新規事業をつくる「人をつくる」ことであるという指摘も印象的でした。スタートアップ能力を社員に実装するためには、既存の研修とは異なる、新規事業に特化した能力開発プログラムが必要だとし、①課題発見力・アイディエーション研修、②事業計画研修、③アジャイル開発研修、④マーケティング研修といった具体例が挙げられています。

この指摘はワイガヤ等を通じて自然と養われていた新規事業開発スキルが、もはや意図しなければ養われない現実と、それを実行することの重要性を再認識させます。

新規事業開発における4つの思考の型

新規事業のアイデア出しについては、「顧客課題ドリブン」「市場トレンドドリブン」「R&D・アセットドリブン」「経営戦略ドリブン」という4つの思考の型に整理されています。「いまあるもの・目の前にあること」を起点にするか「未来の状態」から逆算するか、「社外・顧客・マーケット」から考えるか「自社」を起点にするかという2軸のマトリクスで、自社がどの型に偏りがちかを俯瞰できる構成になっており、アイデア発想の癖を客観視するのに役立つフレームだと思いました。

  • 新規事業を単発の企画として捉えるのではなく、18のシステムのどこが自社に欠けているのかをチェックリスト的に照らし合わせることで、自社の新規事業推進体制の弱点を可視化できそうです。
  • 情報収集の型として、社会変化と技術革新の2カテゴリで定期的にリサーチする仕組みを担当者レベルで持っておくと、企画の説得力が変わってきそうです。
  • オープンイノベーションを検討する際は、「何を内製し、どこを外部に補ってもらうのか」を先に定義してから連携先を探すという順序を意識したいところです。
  • 新規事業人材の育成については、既存の階層別研修とは別立てで、課題発見・事業計画・アジャイル・マーケティングに特化したプログラムを用意するという考え方は、社内の育成体系を見直す際のヒントになります。

冒頭で示された新規事業経営の全体像をベースに、その各要素を順番に説明していく構成になっており、多くの新規事業開発に携わってきた著者らしく、多面的にリスクを取り上げて注意を促す姿勢が随所に感じられました。新規事業はいつだって思い通りにならず、方向修正の連続であるという指摘は、実際に新規事業開発に携わった経験のある身としても大いに共感するところです。

一方で、幅広い読者を想定したためか、表現がやや一般化されすぎており、全体として総論的な印象を受けたのも正直なところです。一般論を体系的に整理し、順序立てて展開している点は評価できるものの、実践的な学びという点ではやや物足りなさが残りました。

また、新規事業を自社で立ち上げず、外部コンサルの会社を「箱」として借りて立ち上げることで、立ち上げ期のリスクを自社で抱えずに済むというアイデアはユニークで、著者自身もそうしたケースが多くあると記していました。ただし、具体的な説明がやや薄く、新規事業に関わる負債や資産をどう扱うのか、立ち上がった事業を売却する形を取るのかといった実務上の詳細までは踏み込まれておらず、イメージをつかみきれなかった点は少し残念でした。

新規事業を「単発の取り組み」ではなく「経営システム」として体系的に捉え直したい方、自社の新規事業推進体制の全体像を俯瞰したい方には一読の価値がある一冊だと思います。


新規事業の経営論: 100億円超の事業をつくる18のシステム
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